一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災防止の職務に従事していた者が、火を失し、死者を伴う火災を発生させた場合は、業務上失火罪及び業務上過失致死罪が成立する。
一 刑法一一七条の二の業務の意義 二 人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務と刑法二一一条の業務 三 易燃物の管理責任者につき業務上失火罪及び業務上過失致死罪が成立するとされた事例
刑法116条1項,刑法117条ノ2,刑法211条
判旨
刑法117条の2前段の「業務」とは職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいい、211条前段の「業務」には人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。
問題の所在(論点)
工場部門の責任者として易燃物を管理し、火災防止の職務に従事していた者が、失火により人を死亡させた場合、刑法117条の2前段の「業務」および同法211条前段の「業務」に該当するか。
規範
1. 刑法117条の2前段(業務上失火罪)にいう「業務」とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 2. 刑法211条前段(業務上過失致死傷罪)にいう「業務」には、一般に「業務」として定義される社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務のうち、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務が含まれる。
重要事実
被告人は、ウレタンフォームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者であった。被告人は、工場内で易燃物であるウレタンフォームを管理しており、その職務には当然に火災を防止することが含まれていた。しかし、被告人は火を失し、死者を伴う火災を発生させた。
事件番号: 昭和53(あ)989 / 裁判年月日: 昭和54年11月19日 / 結論: 棄却
木製ベンチ部分の下部に電熱炉を据えつける方式の組立式サウナ風呂を開発・製作した者が、その構造につき耐火性を検討・確保しなかつたため、右サウナ風呂を継続使用した浴場内において、右木製ベンチを長期間にわたる電熱炉の加熱により漸次炭化させて火災を発生させた場合には、業務上失火罪が成立する。
あてはめ
被告人は、工場部門の責任者として易燃物であるウレタンフォームを管理しており、「職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位」にあるといえる。したがって、失火行為は業務上失火罪の業務にあたる。また、火災防止の職務は、火災による死傷の結果を回避すべき職務であり、「人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務」といえる。ゆえに、失火に伴う致死の結果については業務上過失致死罪の業務に該当する。
結論
被告人の行為は、業務上失火罪(117条の2前段)および業務上過失致死罪(211条前段)に該当する。
実務上の射程
失火と致死傷が同時に発生した場合、各罪の「業務」概念の差異(火気配慮義務と生命身体保護義務)を意識して書き分ける必要がある。特に工場等の管理責任者については、両罪の業務性を肯定する強力な根拠となる。
事件番号: 昭和42(あ)1190 / 裁判年月日: 昭和42年10月12日 / 結論: 棄却
高圧ガス販売業者が顧客の店舗内にプロパンガス容器およびその付属設備を設置した場合において、その設置方法に過失があつたため火災を発生させたときは、業務上失火罪が成立する。