木製ベンチ部分の下部に電熱炉を据えつける方式の組立式サウナ風呂を開発・製作した者が、その構造につき耐火性を検討・確保しなかつたため、右サウナ風呂を継続使用した浴場内において、右木製ベンチを長期間にわたる電熱炉の加熱により漸次炭化させて火災を発生させた場合には、業務上失火罪が成立する。
サウナ風呂の開発・製作の担当者がその構造につき耐火性を検討・確保しなかつた場合と業務上失火罪の成否
刑法116条1項,刑法117条ノ2
判旨
組立式サウナ風呂の開発・製作担当者について、構造上の耐火性を検討・確保し火災を未然に防止すべき業務上の注意義務を認め、業務上失火罪の成立を肯定した事例。
問題の所在(論点)
組立式サウナ風呂の開発・製作の担当者に、製品の構造上の欠陥に起因する火災を防止すべき「業務上の注意義務」が認められるか。また、その注意義務に違反して火災を発生させた場合、業務上失火罪(刑法117条の2)が成立するか。
規範
刑法117条の2前段の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき継続して行う事務を指す。火災の発生を未然に防止すべき注意義務の内容は、当該業務の性質上、具体的状況下で客観的に予見可能な火災の危険性を、構造上の検討や安全措置によって回避すべき義務として構成される。製品の開発・製作を担当する者は、その製品の通常想定される使用態様において発生し得る火災の危険を構造的に除去すべき地位にあるといえる。
重要事実
被告人らは、組立式サウナ風呂の開発および製作の担当者であった。当該製品は、長期間使用した場合には、電熱炉の加熱によって木製ベンチ部分に火災が発生する構造上の危険性を有していた。しかし、被告人らは、開発・製作の過程において、当該製品の構造上の耐火性を十分に検討・確保せず、火災を未然に防止するための適切な措置を講じないまま製品を流通させた。その結果、原判決の認定する経過に従い、実際に火災が発生(失火)した。
事件番号: 昭和58(あ)829 / 裁判年月日: 昭和60年10月21日 / 結論: 棄却
一 刑法一一七条の二にいう業務とは、職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう。 二 刑法二一一条にいう業務には、人の生命・身体の危険を防止することを義務内容とする業務も含まれる。 三 ウレタンフオームの加工販売業を営む会社の工場部門の責任者として、易燃物であるウレタンフオームを管理するうえで当然に伴う火災…
あてはめ
被告人らは、本件サウナ風呂の「開発及び製作の担当者」という社会生活上の地位にあり、製品の安全性に関与する事務を継続的に担っている。本件製品は、長期間の加熱により木製部分から出火する具体的危険性を有していた。そうであれば、開発・製作段階において、その構造自体の「耐火性を検討・確保」し、火災を未然に防止すべき注意義務が認められる。被告人らがこれに反し、原判決認定の経過で失火を招いたことは、業務上の注意義務を怠ったものと評価される。
結論
被告人らには、製品の開発・製作担当者として火災を防止すべき業務上の注意義務があり、これに違反して失火させた行為には業務上失火罪が成立する。
実務上の射程
製品の設計・製造工程における安全確保義務が、刑法上の注意義務として肯定された。製品事故における製造者の刑事責任を認める際の準拠となる判例である。
事件番号: 昭和32(あ)1893 / 裁判年月日: 昭和34年12月25日 / 結論: 棄却
市内の、水羽葺住家の多い所で、二段式風呂釜を据えつけ、これに経約一尺高さ四〇尺余の煙突を設置し、石炭を燃やして連日開湯する公衆浴場の経営者は、煙道の適当な箇所に消防署係員の指示する金網を装置するのはもとより、しばしば煙突掃除を同う等の処置をなすべきもので、もし右のような措置をなさず、そのまま多量の燃料を燃やそうとするな…
事件番号: 昭和62(あ)519 / 裁判年月日: 平成2年11月16日 / 結論: 棄却
ホテルで火災が発生し、火煙の流入拡大を防止する防火戸・防火区画が設置されていなかったため火煙が短時間に建物内に充満し、従業員による避難誘導が全くなかったことと相まって、相当数の宿泊客等が死傷した火災事故において、ホテルの経営管理業務を統括掌理する最高の権限を有し、ホテルの建物に対する防火防災の管理業務を遂行すべき立場に…