大みそかから元旦にかけて特定の神社(新潟県西蒲原郡a村所在A神社)に参拝することが二年まいりと呼ばれ、これがその地方では神社の著名な行事とされていて、例年多数の参拝者が境内に参集する慣わしになつている場合において、当該神社の職員は、右二年まいりの行事を企画施行し、その行事の一環として、午前零時の花火を合図に拝殿前の広場で餅まきをする等の催しを行なうにあたつては、参拝や餅まきの餅を拾うために多数の群集が右拝殿前の広場、これに通ずる門およびその門前の石段付近に集まり、その雑踏によつて転倒者が続出し、多数の死者を生ずるような事故の発生するおそれのあることを予見し、これを未然に防止するため、あらかじめ相当数の警備員を配置し、参拝者の一方交通を行なう等雑踏整理の手段を講ずるとともに、右餅まきの時刻、場所、方法等を配慮し、その終了後参拝者を安全に分散退出させるべく誘導する等の措置をとるべき注意義務がある。
神社の行事に参集した群集の雑踏により多数の死者を生じた事故についてその行事を企画施行した当該神社の職員に右事故の発生を予見しこれを未然に防止するための措置をとるべき注意義務があるとされた事例
刑法210条
判旨
多数の群衆が参集する行事を企画・実施する者には、過去の混乱事例や地形的状況等に照らし、放置すれば災害が発生することを予測すべき注意義務(予見義務)と、適切な警備員の配置や誘導等の具体的措置を講じて事故を防止すべき注意義務(結果回避義務)がある。
問題の所在(論点)
多数の群衆が集まる行事の主催者において、雑踏による人身災害の発生を予見すべき義務(予見義務)および事故を防止するための具体的措置を講ずべき義務(結果回避義務)が認められるか、その判断枠組みが問題となる。
規範
過失犯の成立には、結果発生の予見可能性を前提とした予見義務、および結果発生を未然に防止する可能性を前提とした結果回避義務を要する。群衆事故においては、行事の規模、過去の混乱の有無、地形的状況等の諸事情を総合し、一般の常識として人身災害の発生を予測可能であれば予見義務が認められ、その予測に基づき、参拝者の誘導や分散退出などの具体的防止措置を講ずるべき義務が生じる。
事件番号: 平成19(あ)1634 / 裁判年月日: 平成22年5月31日 / 結論: 棄却
花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官及び現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長の両名において,いずれも上記のような事故の発生を容易に予見でき,かつ,機動隊による流入規制等を…
重要事実
新潟県の神社の職員である被告人らは、昭和31年元旦の「二年詣り」行事において、午前零時の花火を合図に「餅まき」を企画・実施した。前年の餅まきでも混乱が生じていたが、被告人らは具体的な雑踏整理策を講じなかった。当日、餅まきを終えて出ようとする群衆と、遅れまいとして入ろうとする群衆が狭隘な随神門外の石段付近で接触・滞留し、124名が窒息死等する事故が発生した。
あてはめ
まず予見可能性について、本件行事は著名で年々参拝者が増加しており、前年も餅まきで混乱が生じていた。地形的にも危険な石段が存在することから、放置すれば災害が生じることは一般常識として予測可能であり、予見義務が認められる。次に結果回避義務について、予見義務がある以上、相当数の警備員配置による一方通行の実施、餅まきの時刻・場所・方法の工夫、終了後の誘導等の措置をとることが可能かつ必要であった。にもかかわらず、安全確保への関心を欠き漫然と行事を実施したことは、結果回避義務の懈怠にあたる。
結論
被告人らには、本件事故の結果発生を予見すべき義務および回避すべき注意義務の違反が認められるため、過失致死罪が成立する。
実務上の射程
イベント主催者の雑踏警備に関する注意義務を認めたリーディングケースである。事案の特殊性(列車の延着等の悪条件)があっても、基本となる群衆災害の予見可能性が否定されない点に特徴がある。答案では、行事の継続性・過去の類例・場所の危険性などの事実を「予見可能性」の根拠として摘示する際に活用できる。
事件番号: 昭和62(あ)519 / 裁判年月日: 平成2年11月16日 / 結論: 棄却
ホテルで火災が発生し、火煙の流入拡大を防止する防火戸・防火区画が設置されていなかったため火煙が短時間に建物内に充満し、従業員による避難誘導が全くなかったことと相まって、相当数の宿泊客等が死傷した火災事故において、ホテルの経営管理業務を統括掌理する最高の権限を有し、ホテルの建物に対する防火防災の管理業務を遂行すべき立場に…