県が発注したトンネル型水路部分を含む水路建設工事につき,トンネル内に周辺の河川からあふれ出た水が流れ込むのを防止する目的で構造物が設置され,当該構造物が周辺の河川からあふれ出た水の水圧で決壊することを予見することができたなど判示の事実関係の下においては,当該構造物の管理を担当する県職員は,決壊による危険を回避するため,トンネル内で建設工事に従事するなどしていた請負人の作業員らを直ちに退避させる措置を採るべき注意義務がある。
トンネル型水路内に周辺の河川からあふれ出た水が流れ込むのを防止する目的で設置された構造物の管理担当者に同水路内にいた請負人の作業員らを退避させる措置を採るべき注意義務があるとされた事例
刑法211条前段
判旨
公共工事の監督及び施設の管理を担当する公務員は、自ら占有・管理する構造物の決壊による危険を予見できた場合、当該施設内で作業に従事する請負人の作業員らを退避させるべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
公共工事の監督及び管理を担当する公務員が、自ら管理する構造物の決壊に際して、請負人の作業員らに対し、業務上の過失致死傷罪における退避措置等の注意義務を負うか。
規範
業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)における注意義務は、結果発生の予見可能性を前提として、その結果を回避するために客観的に求められる措置を講ずべき義務を指す。特に公的機関が自ら占有・管理する構造物において、管理担当者がその構造物の決壊による危険性を認識し得る状況にある場合には、当該危険範囲内にいる者(請負人の作業員等)に対して、直ちに退避させる等の結果回避措置を講ずべき具体的な注意義務を負う。
重要事実
被告人は千葉県土木部建設課長として、国分川分水路建設工事の監督及び仮締切(浸水防止用構造物)の管理を担当していた。当該仮締切は千葉県が請負人に委ねず自ら占有・管理していた。本件事故発生の20分以上前の時点で、仮締切が周辺河川の溢水による水圧で決壊する可能性を認識することが可能な状況にあったが、トンネル内で作業に従事していた請負人の作業員らを退避させる措置を講じなかったため、決壊により事故が発生した。
事件番号: 平成24(あ)59 / 裁判年月日: 平成26年7月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】国が所有し直轄工事区域内にある海岸保全施設(人工砂浜)において、日常的・具体的な管理を地方自治体が占用許可に基づき行っていたとしても、施設の瑕疵により重大な事故が発生する具体的危険を予見し得た状況下では、国の担当出張所長には、自ら又は自治体に要請して安全措置を講ずべき業務上の注意義務が認められる。…
あてはめ
まず、本件の仮締切は千葉県が自ら占有・管理しており、被告人はその管理担当者であった。次に、事故の20分以上前において仮締切が決壊する可能性を認識することができたといえる(予見可能性の存在)。そうであるならば、被告人は管理担当者として、決壊による危険からトンネル内の作業員らを保護すべき立場にあり、直ちに退避させる措置を講じることによって死亡等の結果を回避すべきであった(結果回避義務の存在)。したがって、被告人には当該注意義務の懈怠が認められる。
結論
被告人は、仮締切の決壊による危険を回避するため、請負人の作業員らを直ちに退避させるべき業務上の注意義務を負う。これを怠った判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、公務員の監督責任や施設管理責任が刑事責任に問われる際の判断枠組みを示している。特に「自ら占有・管理していた」という事実が、請負人への丸投げではない独自の注意義務を基礎付ける重要な要素となる。答案上は、予見可能性の有無を認定した上で、管理権限に基づく結果回避義務の具体的内容(退避指示等)を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 平成27(あ)741 / 裁判年月日: 平成29年6月12日 / 結論: 棄却
快速列車の運転士が制限速度を大幅に超過し,転覆限界速度をも超える速度で同列車を曲線(本件曲線)に進入させたことにより同列車が脱線転覆し,多数の乗客が死傷した鉄道事故について,同事故以前の法令上,曲線に自動列車停止装置(ATS)を整備することは義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと,…
事件番号: 平成19(あ)1634 / 裁判年月日: 平成22年5月31日 / 結論: 棄却
花火大会が実施された公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒して死傷者が発生した事故について,雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官及び現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長の両名において,いずれも上記のような事故の発生を容易に予見でき,かつ,機動隊による流入規制等を…