1 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し,歩行者らに衝突して死傷させた事故について,以前の類似事故事案を処理する時点で,ハブの強度不足のおそれが客観的に認められる状況にあり,そのおそれの強さや,予測される事故の重大性,多発性に加え,同トラックの製造会社が事故関係の情報を一手に把握していたなどの本件事実関係(判文参照)の下では,その時点で同社の品質保証部門の部長又はグループ長の地位にあり品質保証業務を担当していた者には,同種ハブを装備した車両につきリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採り,強度不足に起因するハブの輪切り破損事故が更に発生することを防止すべき業務上の注意義務があった。 2 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し,歩行者らに衝突して死傷させた事故について,同種ハブを装備した車両につきハブの強度不足のおそれ等からリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採るべき業務上の注意義務があり,同義務を尽くすことによって同事故の回避可能性を肯定し得る場合において,同事故がハブの強度不足に起因するとは認められないのであれば,同事故と上記義務違反との間の因果関係を認めることはできないが,同事故がハブの強度不足に起因して生じたものと認められる判示の事情の下においては,上記義務違反に基づく危険が現実化したものとして,同事故と上記義務違反との間に因果関係がある。 (1,2につき反対意見がある。)
1 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し,歩行者らを死傷させた事故について,同トラックの製造会社で品質保証業務を担当していた者において,同種ハブを装備した車両につきリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採るべき業務上の注意義務があったとされた事例 2 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し,歩行者らを死傷させた事故と,同種ハブを装備した車両につきリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採るべき業務上の注意義務に違反した行為との間に因果関係があるとされた事例
(1,2につき)刑法(平成13年法律第138号による改正前のもの)211条前段
判旨
自動車メーカーの品質保証部門責任者らは、ハブの破損事故が多発していた状況下で、強度不足の疑いを認識し得た以上、リコール等の改善措置を講じて人身事故を防止すべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
リコール届出等の行政上の手続に携わる品質保証部門の責任者に、刑法上の業務上過失致死傷罪における結果回避義務(リコール実施義務)が認められるか。また、具体的な事故原因が不明確な場合でも、強度不足の疑いと事故結果との間に因果関係を認められるか。
事件番号: 平成26(あ)747 / 裁判年月日: 平成28年7月12日 / 結論: 棄却
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規範
人の生命・身体の安全に関わる重要保安部品において、想定外の破損事故が短期間に相当数発生し、かつ客観的に強度不足の疑いが生じている状況下では、製造販売会社の品質保証担当者は、当該部品の危険性を予見し、リコール等の改善措置を講じて事故発生を防止すべき業務上の注意義務を負う。仮に事故原因に使用者側の整備不良等の要因が混在し得るとしても、部品自体の強度不足の疑いが否定されない限り、当該義務は免除されない。
重要事実
三菱自動車の品質保証部門の責任者であった被告人らは、ハブ(重要保安部品)の「輪切り破損」事故が数年間に16件発生していた事実を把握していた。同社内では、リコール回避等のため事故情報を秘匿し、原因を「使用者側の整備不良(摩耗原因説)」とする根拠の乏しい仮説で処理していた。その後、被告人らが適切な調査やリコール措置を怠ったまま放置した結果、走行中にハブが破損・脱輪し、歩行者を死傷させる事故(本件瀬谷事故)が発生した。
あてはめ
【予見可能性】重要保安部品であるハブの破損が16件も続発し、かつ開発時に客観的データで強度が確認されていなかった以上、強度不足により人身事故が発生することは十分予見可能であった。摩耗原因説は合理的な根拠を欠き、予見可能性を否定する事情にはならない。【結果回避義務】多発する事故情報を一手に把握する被告人らの地位・職責に照らせば、徹底調査を行いリコール等の社内手続を進めるべき義務があった。【因果関係】後に実施された試験等により、Dハブには設計・製作上の強度不足の欠陥が認められた。本件事故も、この欠陥に起因して生じたものと認定でき、被告人らが適切にリコールを実施していれば事故は確実に回避できたといえる。
結論
被告人らには業務上の注意義務違反(過失)が認められ、本件事故との因果関係も肯定されるため、業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
メーカーの製品事故における過失責任のリーディングケース。事故原因が特定しきれない段階でも、異常な事故の多発という客観的事態から「強度不足の疑い」を認定し、リコール義務を肯定する論法として有用。あてはめでは、被告人の具体的職責と、社内での情報秘匿という主観的悪性を指摘することがポイントとなる。
事件番号: 平成27(あ)741 / 裁判年月日: 平成29年6月12日 / 結論: 棄却
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