再生債務者に対して債務を負担する者が,当該債務に係る債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,これをすることができる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当しない。 (補足意見がある。)
再生債務者に対して債務を負担する者が自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当するか
民事再生法92条1項
判旨
再生債務者に対して債務を負担する者が、自らと完全親会社を同じくする他の株式会社(関係会社)の有する再生債権を自働債権として相殺することは、あらかじめ合意があっても民事再生法92条1項の相殺として許されない。同条項は民法505条1項の「相互性」の要件を採用しており、互いに債務を負担しない者の間での相殺を認めることは債権者平等の原則を没却するためである。
問題の所在(論点)
再生債務者に対して債務を負担する者が、あらかじめ締結された特約に基づき、自らと完全親会社を同じくする他の株式会社(関係会社)が有する再生債権を自働債権として、自己の債務と相殺すること(三角相殺)が、民事再生法92条1項により許容されるか。
規範
民事再生法92条1項は、再生債務者に対して債務を負担する者が再生手続開始時に再生債務者に対して債務を負担することを要件としており、民法505条1項本文の「2人が互いに債務を負担する」という相互性の要件を維持していると解される。したがって、契約当事者以外の関係会社が有する債権を自働債権とする相殺の合意があっても、相互性を欠く以上、同法92条1項による相殺は認められない。
重要事実
再生債務者(上告人)と被上告人は、デリバティブ取引の基本契約を締結していた。当該契約には、一方に倒産事由が生じた場合、他方当事者(被上告人)が自己またはその「関係会社」が有する債権を自働債権とし、再生債務者に対する債務を受働債権として相殺できる旨の条項(本件相殺条項)があった。上告人に再生手続が開始された際、被上告人は、自らと同じ完全子会社であるB社が上告人に対して有する清算金債権を自働債権として、本件相殺条項に基づき相殺の意思表示をした。
あてはめ
相殺は本来、相対立する債権債務を簡易に決済し、担保的機能への合理的期待を保護するものであるが、民事再生法92条1項は「相互性」を要件としている。本件では、受働債権の債務者は被上告人であるのに対し、自働債権の債権者は別法人であるB社であり、互いに債務を負担する関係にない。このような法人格を異にする三者間の相殺を認めると、再生債権者間の公平・平等な扱いという基本原則を没却することになる。グループ企業間でのリスク管理という経済的合理性があるとしても、文言に反する解釈は認められない。
結論
本件相殺条項に基づく相殺は、民事再生法92条1項に該当せず、無効である。被上告人は上告人に対し、清算金および約定遅延損害金を支払う義務を負う。
実務上の射程
法人格を異にする三者間相殺(三角相殺)の倒産手続における効力を明確に否定した判例である。金融実務上のニーズがあっても、現行法上の「相互性」の壁は厚い。答案上は、民事再生法92条の趣旨(相殺の担保的機能の保護)と債権者平等原則の調和から、文言通りの「相互性」を厳格に要求する論理として用いる。
事件番号: 昭和36(オ)793 / 裁判年月日: 昭和38年7月19日 / 結論: 棄却
代えうる。