約束手形の所持人が、手形の買戻請求権ないし遡求権を行使することなく、振出人に対する手形債権と振出人の手形所持人に対する預金返還請求権とを対当額において相殺する意思表示をすることにより手形上の権利の満足実現を図つたために、手形の裏書人が買戻請求権ないし遡求権の行使を免れ、結果において利得するところがあつたとしても、裏書人の利得と振掛人がその預金返還請求権の一部を相殺によつて失つた損失との間に民法七〇三条の予定する法律上の因果関係があるということはできない。(意見がある。)
受益と損失との間に因果関係がないとして不当利得の成立が否定された事例
民法703条
判旨
手形の所持人が、裏書人への遡求ではなく振出人の預金債権との相殺により手形金の満足を得た場合、裏書人が遡求を免れる利得と振出人の損失との間には不当利得法上の因果関係は認められない。
問題の所在(論点)
手形所持人が振出人の預金債権と相殺したことにより、裏書人が遡求を免れた場合、裏書人の利得と振出人の損失との間に民法703条の因果関係が認められるか。
規範
不当利得(民法703条)が成立するためには、利得と損失の間に法律上の因果関係が必要である。数個の権利を有する債権者が、その自由な意思により特定の権利を行使して債権の満足を得た結果、他の債務者が債務を免れる利益を得たとしても、それは債権者の選択の結果にすぎず、特段の事情のない限り、当該利益と他方の損失との間に法律上の因果関係を認めることはできない。
重要事実
銀行Dは、被上告人から裏書譲渡を受けた約束手形を所持していた。手形が不渡りとなったため、D銀行は被上告人に対して買戻請求権(遡求権)を行使することもできたが、あえて振出人である破産会社の預金返還請求権と手形債権を対当額で相殺する方法を選択し、債権の満足を得た。破産管財人(上告人)は、この相殺によって被上告人が遡求を免れる利益を得たことは、破産財団の損失に基づく不当利得であると主張し、相殺の抗弁を提出した。
あてはめ
D銀行は、手形を保持して振出人に権利行使するか、裏書人に遡求するかを自由に選択できる立場にあった。D銀行が自らの意思決定により前者の道を選び、相殺によって権利を実現したことは、被上告人の関知しないところである。被上告人が結果として遡求を免れる利得を得たとしても、それはD銀行の自由な選択の結果であり、破産会社が預金債権を失った損失との間に直接的な因果関係があるとはいえない。
結論
被上告人の利得と破産会社の損失との間に法律上の因果関係はないため、不当利得は成立せず、破産管財人による相殺の抗弁は認められない。
実務上の射程
債権者が複数の債務者(または担保)を持つ場合に、いずれから回収するかを選択したことで生じる反射的利益について、不当利得の成立を否定する。答案上は、不当利得の因果関係の要件において「受益が他方の損失によるもの」といえるかを論じる際の標準的な規範として活用できる。
事件番号: 平成13(受)704 / 裁判年月日: 平成17年1月17日 / 結論: その他
破産債権者は,破産者に対する債務がその破産宣告の時において期限付又は停止条件付である場合には,特段の事情のない限り,期限の利益又は停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後に期限が到来し又は停止条件が成就したときにも,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)99条後段の規定により,その債務に対…