国は,拘置所に収容された被勾留者に対して,その不履行が損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の安全配慮義務を負わない。
拘置所に収容された被勾留者に対する国の安全配慮義務の有無
民法1条2項,民法415条,刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律(平成18年法律第58号による廃止前のもの)40条,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律62条1項2号
判旨
未決勾留による拘禁関係は、公法上の規律に基づく強制的な関係であって、信義則上の安全配慮義務を基礎付ける特別な社会的接触の関係には当たらない。
問題の所在(論点)
国と拘置所に収容された被勾留者との間に、信義則上の安全配慮義務を発生させる「特別な社会的接触の関係」が認められ、国が安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償責任を負うか。
規範
未決勾留による拘禁関係は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の意思にかかわらず形成され、法令等の規定に従って規律されるものである。したがって、かかる拘禁関係は、当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上の安全配慮義務を負うべき「特別な社会的接触の関係」とはいえない。よって、国は被勾留者に対し、その不履行が損害賠償責任を生じさせる信義則上の安全配慮義務を負わない。
重要事実
器物損壊罪で逮捕・勾留されていた被上告人は、収容先の拘置所において11食連続で食事を摂取せず、体重が5kg減少した。医師は生命の危険があると判断し、被上告人の同意を得ずに鼻腔経管栄養補給処置を実施したが、その際鼻腔から出血が生じた。被上告人は、国が拘置所収容者に対する診療行為上の安全配慮義務を怠ったと主張し、債務不履行に基づく損害賠償を請求した(なお、国家賠償請求権は消滅時効により消滅していた)。
あてはめ
未決勾留は公権力による強制的な身体拘束であり、私法上の契約関係に類する合意に基づく関係ではない。本件における診療行為も、法令に基づく拘束関係に付随して行われるものであり、当事者間の自由な意思による接触ではない。そのため、未決勾留に伴う諸活動は法令により規律されるべき公法上の関係に留まり、私法上の概念である信義則を根拠として、債務不履行責任の前提となる安全配慮義務を基礎付けることはできないと解される。
結論
国は被勾留者に対して信義則上の安全配慮義務を負わないため、被上告人の債務不履行に基づく損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
公物管理や拘留など、公権力の行使に基づく関係において安全配慮義務が肯定されるためのハードルを示した。国家賠償請求が時効等で認められない場合に、債務不履行(消滅時効10年)へ構成を変更して救済を図る主張を封じる射程を持つ。ただし、事実関係次第で国家賠償法1条1項の責任は別途成立し得ることに留意が必要である。
事件番号: 昭和40(オ)76 / 裁判年月日: 昭和41年10月21日 / 結論: 棄却
鑑定の結果血液型の不一致が明らかになつたため、被疑者が犯人であることが極めて疑わしいものとなつた等原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとでは、勾留を継続すべき相当な理由は消滅したものといわなければならず、その後の釈放遅延による被疑者の精神的苦痛に対して、国は担当検察官の過失による国家賠償法第一条に基づく責任を負わな…