1 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,共犯関係にない二人以上が暴行を加えた事案において,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち同一の機会に行われたものであることの証明をした場合,各行為者において,自己の関与した暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないとしたものである。 2 共犯関係にない二人以上の暴行による傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提となる事実関係が証明された場合には,いずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても,各行為者について同条の適用は妨げられない。
1 同時傷害の特例を定めた刑法207条の法意 2 共犯関係にない二人以上の暴行による傷害致死の事案においていずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定された場合と刑法207条の適用の可否
(1,2につき)刑法207条
判旨
共犯関係にない二人以上の者による時間的・場所的に近接した各暴行により傷害が生じ、死の結果が発生した場合において、各暴行がいずれも当該傷害を生じさせ得る危険性を有し、かつ外形的に共同実行に等しい「同一の機会」に行われたときは、刑法207条が適用される。この場合、自己の暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害致死罪の責任を負う。
問題の所在(論点)
共犯関係にない別個の暴行が時間的・場所的に近接して行われ、死因となる傷害がいずれの暴行により生じたか判明しない場合に、刑法207条(同時傷害の特例)を適用して傷害致死罪の責任を問えるか。また、特定の暴行と結果との間に因果関係が推認される場合でも同条が適用されるか。
規範
刑法207条(同時傷害の特例)は、原因暴行の特定困難性を克服する趣旨の規定である。同条適用の前提として、検察官は、①各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有すること、②各暴行が外形的に共同実行に等しいと評価できる「同一の機会」に行われたことを立証する必要がある。これが証明された場合、各行為者は自己の暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り、生じた傷害及び死の結果について責任を負う。また、特定の暴行と死の結果との間に因果関係が認められる余地がある場合でも、同条の適用は妨げられない。
重要事実
被告人A・Bは、飲食代金の支払をめぐり被害者に暴行を加え(第1暴行)、その約40分後、逃走しようとした被害者に対し、別の場所にいた被告人Cが加勢して苛烈な暴行を加えた(第2暴行)。被害者は急性硬膜下血腫により死亡したが、当該傷害が第1・第2いずれの暴行により生じたかは不明であった。なお、第2暴行は単独でも死因となる傷害を生じさせるに足りるものであった。
あてはめ
第1暴行と第2暴行は、いずれも急性硬膜下血腫を生じさせる危険性を有する。両暴行に共犯関係はないが、時間的・場所的に近接しており、被害者の逃走阻止という状況下で「同一の機会」に行われたといえるならば、外形的に共同実行に等しいと評価できる。この場合、たとえ第2暴行と死亡との間に因果関係が肯定される余地があったとしても、原因暴行の特定が困難である以上、挙証責任を被告人側に転換する207条の趣旨は妥当する。したがって、各被告人は自己の暴行と傷害の不存在を立証しない限り、傷害致死の責を免れない。
結論
被告人らに刑法207条を適用し、傷害致死罪の成否を判断すべきである。そのため、暴行の「同一の機会」性についてさらに審理を尽くさせるため、第一審判決を破棄し差し戻した原判決は正当である。
実務上の射程
本決定は、同時傷害の特例が傷害致死罪にも適用されることを再確認するとともに、その適用要件として「同一の機会」という基準を明示した。特に、後続の暴行と結果との間に因果関係が推認されるような事案であっても、原因暴行が不明である限り207条の適用を肯定した点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和35(あ)2735 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】複数の者が暴行を加え、特定の負傷がいずれの者の行為によるか判明しない場合において、各行為者の間に共謀が認められないときは、刑法207条(同時傷害の特例)が適用され、各行為者は傷害罪の共同正犯の例により処罰される。 第1 事案の概要:被告人は他の数名と共に被害者に対し暴行を加えたが、被告人が中心的人…