原審の是認した第一審判決の確定した事実によれば被告人はジヤツクナイフでまずAの左前頚部を突刺し、これに挫傷を与え、次いでBの右耳前部左顎下等を三回突き刺しこれに切創を与えたというのである。すなわち被告人は別個の行為によつて被害者両名に対しそれぞれ傷害を加えたというのであるから、たとえ、それが同一動機に基ずき殆んど時と所とを同じくして順次行われたものであるとしても、被害者毎に別異の法益の侵害ありと認むべく従つて本件傷害罪は二個成立するものというべく、これを併合罪とした原判旨は正当である。
同一動機にもとずき犯行の時と所を殆んど同じくするが、別個の行為により数人に対してなした傷害行為の罪数 −併合罪か否か−
刑法204条,刑法45条
判旨
同一の動機に基づき、ほぼ時と所を同じくして行われた前後二つの傷害行為であっても、被害者が異なる場合には別個の法益を侵害するものとして併合罪(刑法45条前段)となる。
問題の所在(論点)
同一の動機に基づき、近接した時間および場所で、異なる被害者に対して順次行われた傷害行為について、一個の行為(観念的競合)と評価すべきか、あるいは別個の行為として併合罪(刑法45条前段)とすべきか。
規範
一個の行為が二個以上の罪名に触れる(観念的競合)か、あるいは併合罪となるかは、侵害される法益の数及び行為の個数によって決せられる。身体の安全という専属的法益を侵害する犯罪においては、被害者ごとに法益の侵害が認められるため、別個の行為によって複数の被害者に傷害を負わせた場合は、たとえ動機や日時・場所が近接していても、原則として併合罪を構成する。
重要事実
被告人はジャックナイフを使用し、まず被害者Aの左前頸部を突き刺して挫傷を負わせた。その直後、同一の場所において、別の被害者Bの右耳前部や左顎下等を3回突き刺して切創を負わせた。これらの行為は同一の動機に基づき、ほとんど時と所を同じくして順次行われたものであった。
あてはめ
被告人は、まずAを突き刺し、次にBを突き刺しており、物理的・時間的に区別可能な「別個の行為」によって傷害を加えている。また、傷害罪は個人の身体の安全を保護するものであるから、被害者ごとに「別異の法益の侵害」が認められる。たとえ動機が共通し、時間・場所が極めて近接していたとしても、行為の独立性と法益侵害の複数性を否定する理由にはならない。
結論
被告人の行為には2個の傷害罪が成立し、それらは併合罪の関係に立つ。
実務上の射程
専属的法益(生命、身体、自由等)を侵害する犯罪において、罪数決定の基準が被害者の数にあることを示した重要判例である。答案上は、数個の行為がある場合に、包括一罪や観念的競合を安易に認めず、原則通り併合罪として処理する際の論拠として用いる。
事件番号: 平成27(あ)703 / 裁判年月日: 平成28年3月24日 / 結論: 棄却
1 同時傷害の特例を定めた刑法207条は,共犯関係にない二人以上が暴行を加えた事案において,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち同一の機会に行われたものであることの証明をした場合,各行為者において,…