判旨
1個の行為が複数の罪名に触れる場合、刑法54条1項前段の想像的併合(観念的競合)として、その最も重い刑により処断すべきである。
問題の所在(論点)
1個の行為により複数の結果が発生した場合、それらの罪の関係をどのように評価し、科刑すべきか(刑法54条1項前段の適用範囲)。
規範
1個の行為が2個以上の罪名に触れるときは、刑法54条1項前段(観念的競合、判決文中の表現では「想像的併合」)に基づき、その最も重い刑により処断する。この場合、刑法47条の併合罪加重(刑を1.5倍にする規定)を適用することはできない。
重要事実
被告人が行った行為が、複数の罪名(傷害罪等)に触れる事案であった。原審は、当該行為をいわゆる「想像的併合罪」であると判断し、数個の罪のうち最も重い傷害罪の刑に従って処断したが、併合罪加重は行わなかった。これに対し、弁護側が判決の構成等に違法があるとして上告した。
あてはめ
本件において、被告人の行為は1個の行為が複数の罪名に触れる場合に該当し、観念的競合の関係にあるといえる。原判決は、この関係を「想像的併合罪」として捉え、法定刑の最も重い傷害罪の刑を選択して処断している。また、併合罪(刑法45条前段)のような刑の加重を行っていないことから、科刑上の過誤はなく、刑法54条1項前段の解釈・適用として正当であると解される。
結論
本件は観念的競合(想像的併合)にあたり、重い傷害罪の刑により処断した原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
1個の行為が複数の構成要件に該当する場合(例:1発の銃弾で2人を殺傷)の処断例として、刑法54条1項前段の典型的な適用場面を示す。答案上は、数罪の成否を論じた後、罪数処理の段階で「1個の行為が2個以上の罪名に触れる(刑法54条1項前段)」ことを指摘し、科刑上一罪として処理する際の論理として用いる。
事件番号: 昭和31(れ)16 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
一 前夜岡山県下で強盗を行つて得た賍物を舟で運搬し、翌晩神戸で陸揚げしようとする際巡査に発見され、逮捕を免れるため暴行を加え、これを傷害した所為は、強盗傷人ではなく、強盗と公務執行妨害、傷害との罪が成立する。 二 牽連犯が成立するためには犯人が主観的に数罪の一方を他方の手段または結果の関係において実行したというだけでは…
事件番号: 昭和27(あ)664 / 裁判年月日: 昭和28年4月14日 / 結論: 破棄自判
一 刑法第五四条第一項前段の一個の行為が数個の罪名に触れる場合に「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」と規定しているのはその数個の罪名中もつとも重い刑を定めている法条によつて処断するという趣旨と共に他の法条の最下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むと解するのが相当である。 二 公務執行妨害罪と傷害罪が刑法第五四…
事件番号: 昭和28(あ)5069 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
原判決は、被告人Aが判示の如き言動によりB等五名の群馬県事務吏員を脅迫して差押物件の引揚を断念せしめ、以て一個の行為によつて右公務員等の公務執行を妨害した事実を認定したのであるから、同判決がこれに対し刑法九五条一項、同五四条一項前段の規定を適用し一罪として処断したのは相当である(昭和二四年(れ)第一三九号同二六年五月一…