一 刑法第五四条第一項前段の一個の行為が数個の罪名に触れる場合に「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」と規定しているのはその数個の罪名中もつとも重い刑を定めている法条によつて処断するという趣旨と共に他の法条の最下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むと解するのが相当である。 二 公務執行妨害罪と傷害罪が刑法第五四条第一項前段の関係にある場合に傷害罪所定の罰金刑で処断するのは刑法第五四条第一項前段の規定の解釈を誤つたもので違法である。
一 刑法第五四条第一項前段の法意 二 公務執行妨害罪と傷害罪が刑法第五四条第一項前段の関係にある場合に傷害罪所定の罰金刑で処断することは適法か
刑法54条1項,刑法95条,刑法204条
判旨
刑法54条1項前段の「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」とは、最も重い刑を定めた法条で処断するだけでなく、他の法条の法定刑の最下限を下回って処断することはできないという趣旨を含む。
問題の所在(論点)
刑法54条1項前段の観念的競合において「最も重い刑をもって処断する」とは、適用されない側の法条の法定刑による制約(下限の封鎖効果)を受けるか、あるいは単に最も重い法条の枠内であれば自由に選択できるのかが問題となる。
規範
刑法54条1項前段の規定により観念的競合として処断する場合、その処断刑の範囲は、数個の罪名のうち最も重い刑を定めている法条によって定められる。これに加え、処断刑の下限については、他の法条が定めている法定刑の最下限よりも軽く処断することはできない(封鎖効果)。すなわち、各法条の法定刑のうち、上限・下限ともに最も重い範囲内において刑を量定すべきである。
重要事実
被告人は、公務員の職務執行に対して暴行を加え、これにより当該公務員を負傷させた。第一審および原審は、公務執行妨害罪(刑法95条1項)と傷害罪(刑法204条)の観念的競合として、重い傷害罪の法条を適用した。しかし、公務執行妨害罪の法定刑には懲役・禁錮刑しか定めがないにもかかわらず、傷害罪の法定刑にある罰金刑を選択し、被告人を罰金2万円に処した。
あてはめ
本件において、公務執行妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役又は禁錮」であり、罰金刑の選択肢はない。一方、傷害罪の法定刑は「10年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料(当時)」である。観念的競合として傷害罪の法条を適用する場合であっても、他方の公務執行妨害罪が懲役刑以上の重い刑を求めている以上、これより軽い罰金刑を選択することは、54条1項前段の「最も重い刑をもって処断する」との趣旨に反する。
結論
被告人を罰金刑に処した原判決は刑法54条1項の解釈を誤った違法がある。公務執行妨害罪の法定刑の最下限に拘束され、懲役刑を選択した上で量刑すべきである。
実務上の射程
観念的競合における「下限の封鎖効果」を認めたリーディングケースである。答案作成上は、罪数処理の場面で、選択する刑種がすべての該当法条に含まれているかを確認し、含まれない軽い刑種を選択してはならないという制約として記述する。
事件番号: 昭和28(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和28年11月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】1個の行為が複数の罪名に触れる場合、刑法54条1項前段の想像的併合(観念的競合)として、その最も重い刑により処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人が行った行為が、複数の罪名(傷害罪等)に触れる事案であった。原審は、当該行為をいわゆる「想像的併合罪」であると判断し、数個の罪のうち最も重い傷害罪…
事件番号: 昭和27(あ)4455 / 裁判年月日: 昭和28年7月2日 / 結論: 棄却
第一審判決は、その判示第四において、公務執行妨害を認めたものではなく、軽き単純暴行罪を認定したものであることその判示に照し明白であり、従つて、その判示中刑法二〇四条とあるのは、刑法二〇八条の誤記と認められるし、その科刑も右暴行罪の外酒税法違反並びに外国人登録令違反の判示併合罪につき懲役一〇月及び罰金三万円に過ぎないから…