第一審判決は、その判示第四において、公務執行妨害を認めたものではなく、軽き単純暴行罪を認定したものであることその判示に照し明白であり、従つて、その判示中刑法二〇四条とあるのは、刑法二〇八条の誤記と認められるし、その科刑も右暴行罪の外酒税法違反並びに外国人登録令違反の判示併合罪につき懲役一〇月及び罰金三万円に過ぎないから刑訴四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認らめれない。
刑訴第四一一条にあたらない一事例(適条の誤記)
刑訴法411条
判旨
判決書に明白な誤記がある場合であっても、認定された罪種や科された刑期等に照らし、正義に反すると認められない限りは、職権による破棄理由(刑訴法411条)とはならない。
問題の所在(論点)
判決書において適用法条の条数に誤記がある場合(刑法204条と208条の取り違え等)において、刑訴法411条を適用して職権で原判決を破棄すべきか。
規範
第一審判決に法令の適用の誤り(誤記)がある場合であっても、判示内容から真実の認定罪名が明白であり、かつ科刑がその認定罪名の範囲内であって、諸般の事情に照らし原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められない場合には、刑訴法411条による破棄は要しない。
重要事実
第一審判決は、その判示において公務執行妨害ではなく「軽き単純暴行罪」を認定したことが明白であったが、法令の適用として「刑法204条(傷害罪)」と記載していた。実際には「刑法208条(暴行罪)」の誤記であった。被告人は、酒税法違反、外国人登録令違反、および当該暴行罪の併合罪により、懲役10月および罰金3万円に処せられていた。
事件番号: 昭和28(あ)5108 / 裁判年月日: 昭和30年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法405条の上告理由に当たらない主張、すなわち実質的な事実誤認の主張や単なる法令違反の主張は、適法な上告理由とは認められない。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対し、憲法違反および法令違反を理由に上告を申し立てた事案。弁護人が主張した「憲法違反」は実質的に事実誤認を指摘するものであり、「…
あてはめ
本件では、判示内容を全体としてみれば、裁判所が公務執行妨害や傷害ではなく単純暴行罪を認定したことは明白である。したがって、204条という記載は単なる208条の誤記と認められる。また、科された刑罰(懲役10月・罰金3万円)は併合罪であることを考慮すれば暴行罪の範囲を逸脱しているとはいえず、この程度の誤記を理由に判決を破棄しないことが「著しく正義に反する」とは認められない。
結論
上告を棄却する。判決書の誤記が明白であり、実質的な量刑不当等の正義に反する事態がなければ、職権破棄の必要はない。
実務上の射程
実務上、判決書の形式的な誤記(法令適用の条数誤り)のみを理由とする上告の限界を示すものである。刑訴法411条の「著しく正義に反すると認めるとき」の判断基準として、判示内容から認定事実が特定可能か、および科刑の相当性を重視する姿勢を示している。
事件番号: 昭和26(あ)3990 / 裁判年月日: 昭和28年7月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の罪に対し、それぞれの罪について個別に刑を選択した結果、懲役刑と罰金刑を併科することは適法であり、憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は三つの罪状について起訴された。第一審判決は、判示第一および第二の事実について懲役刑を選択し、判示第三の事実については罰金刑を選択した。その結果、主文に…
事件番号: 昭和25(あ)1482 / 裁判年月日: 昭和26年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法405条に当たらない事実誤認や証拠標目の誤記等の主張については、記録を精査しても同法411条を適用すべき事由がない限り、適法な上告理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人が、第一審判決を維持した原判決に対し、事実誤認があること、および証拠として存在しない「虚無の証拠」を断罪の資料に供…