一、上告審において韓国の戸籍抄本を取り調べるにあたつては、公判にこれを顕出するをもつて足りる。 二、被告人が外国人登録事項確認申請にあたつて申告した姓名、生年月日と一致する戸籍抄本が、上告審においてはじめて提出され、その取調が行なわれた場合、虚偽の申請をしたものとして被告人を有罪とした第一審判決およびこれを是認した原判決は、結果的に審理不尽の違法をきたし、これを破棄しなければ著しく正義に反する。
一、上告審において外国の公文書(韓国の戸籍抄本)を取り調べる方法 二、右戸籍抄本取調の結果審理不尽の違法があるとして原判決が破棄された事例
刑訴法414条,刑訴法393条1項,刑訴法404条,刑訴法305条,刑訴法411条1号,刑訴法379条,刑訴法435条6号
判旨
最高裁判所は、上告理由がない場合でも、事実認定に重大な疑問があり審理不尽の違法が認められるときは、職権により原判決を破棄することができる。外国人登録上の氏名・生年月日の虚偽記載の故意については、真実の戸籍の存在可能性を十分に排除した上で判断すべきである。
問題の所在(論点)
上告裁判所が刑訴法411条1号に基づき、事実誤認を理由に職権で原判決を破棄すべき「著しく正義に反する」場合に該当するか。また、被告人に外国人登録事項の虚偽記載に関する故意が認められるか、その前提となる事実認定に審理不尽がないかが問題となる。
規範
上告裁判所は、刑訴法405条の上告理由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められるときは、刑訴法411条に基づき職権で判決を破棄することができる。また、上告審に提出された新資料は、事実審における証拠調べの手続きを経ずとも、事実認定の当否を判断する資料とすることができる。
重要事実
被告人は外国人登録事項確認申請において、虚偽の氏名・生年月日を記載したとして有罪判決を受けた。第一審は、出生届の記載がないB名義の戸籍を根拠に、被告人の主張する属性は虚偽であると断定した。しかし、上告審で提出されたA名義の戸籍抄本には、被告人の主張する生年月日および出生地の記載があり、被告人の弁解(戸籍上の氏名もAであり生年月日も正しい)を裏付ける可能性があった。
あてはめ
上告審で顕出されたA名義の戸籍抄本によれば、被告人の外国人登録上の記載と合致する人物の出生が確認できる。第一審が依拠したB名義の戸籍以外に真実の戸籍が存在しないとの証明は不十分であり、被告人が虚偽の認識を持っていたとする認定には合理的な疑いが残る。新資料と被告人の結びつきを審理せずに有罪とした判断は、結果的に審理不尽の違法を招いており、判決に影響を及ぼすことは明らかである。
結論
被告人を有罪とした原判決および第一審判決には審理不尽の違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。したがって、両判決を破棄し、本件を第一審裁判所に差し戻す。
実務上の射程
刑訴法411条の職権破棄の要件を具体化した事例である。上告審に提出された新資料(戸籍等)から事実認定の合理性に疑義が生じた際、自ら事実を確定せず、事実審に差し戻して審理を尽くさせるべき実務上の指針を示している。答案上は、事後審構造における事実誤認の是正の限界と職権救済の範囲を示す文脈で活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)3185 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が、みずから何ら事実の取調をすることなく、右判決を破棄し、訴訟記録および第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。
事件番号: 昭和25(あ)1482 / 裁判年月日: 昭和26年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法405条に当たらない事実誤認や証拠標目の誤記等の主張については、記録を精査しても同法411条を適用すべき事由がない限り、適法な上告理由にはならない。 第1 事案の概要:被告人が、第一審判決を維持した原判決に対し、事実誤認があること、および証拠として存在しない「虚無の証拠」を断罪の資料に供…