原判決は、被告人Aが判示の如き言動によりB等五名の群馬県事務吏員を脅迫して差押物件の引揚を断念せしめ、以て一個の行為によつて右公務員等の公務執行を妨害した事実を認定したのであるから、同判決がこれに対し刑法九五条一項、同五四条一項前段の規定を適用し一罪として処断したのは相当である(昭和二四年(れ)第一三九号同二六年五月一六日大法廷判決、集五巻六号一一六〇頁参照)。
同時に同一場所で数名の県事務吏員の公務の執行を妨害した場合の罪数
刑法95条1項,刑法54条1頁前段
判旨
一回の脅迫行為により複数の公務員に対する公務の執行を妨害した場合、公務執行妨害罪は一個の行為で複数の法益を侵害するものとして観念的競合(刑法54条1項前段)となる。
問題の所在(論点)
一個の脅迫行為により複数の公務員に対する公務執行を妨害した場合、公務執行妨害罪の罪数関係はどのように解すべきか。公務の不可分性から一罪とすべきか、それとも観念的競合とすべきかが問題となる。
規範
一個の行為により、数人の公務員に対して公務執行妨害罪(刑法95条1項)の構成要件に該当する行為が行われた場合、同罪の保護法益は「公務」という抽象的なものにとどまらず、個々の公務員が遂行する具体的な「公務の執行」である。したがって、一個の身体的活動が複数の公務執行妨害罪に触れる場合には、刑法54条1項前段に基づき、観念的競合として処断すべきである。
重要事実
被告人Aは、群馬県事務吏員Bほか計5名による差押物件の引揚業務を妨害しようと考え、判示のごとき脅迫的な言動を用いた。この一個の脅迫行為により、現場にいた公務員5名全員の職務執行を断念させ、その公務を妨害した。
あてはめ
被告人Aの言動は、差押物件の引揚という一連の公務に従事していたBほか計5名の公務員を対象としたものである。この言動により5名各人の職務遂行を妨害した事実は、5つの公務執行妨害罪の構成要件を充足する。しかし、その態様は一個の行為(脅迫)によるものであることから、刑法54条1項前段にいう「一個の行為が二個以上の罪名に触れるとき」に該当すると評価される。
結論
被告人の行為は5個の公務執行妨害罪を構成し、それらは観念的競合として一罪として処断される。
実務上の射程
公務執行妨害罪における罪数判断のリーディングケースである。答案上は、保護法益を「公務員によって行われる個々の公務の執行そのもの」と解し、被害公務員の数だけ罪が成立することを前提としつつ、行為の個数に着目して観念的競合を導く流れを記述する際に用いる。
事件番号: 昭和59(あ)627 / 裁判年月日: 昭和62年3月12日 / 結論: 棄却
県議会委員会の条例案採決等の事務は、威力業務妨害罪にいう[業務]に当たる。
事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
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日本専売公社徳島地方局社内取締規程に基づいて発せられた本件立入禁止命令及び退去命令の同公社職員による執行は、それが民間企業にみられるのと同じ労使間の紛争を処理するためにとられた措置であつても、公務執行妨害罪における職務にあたる。