判旨
刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」は、公務員に対し直接加えられるものであることを要せず、公務員に向けられた有形力の行使であれば間接的であっても同罪を構成する。
問題の所在(論点)
刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」の定義および範囲。特に、公務員の身体に対する直接的な接触がない「間接暴行」であっても、同条の「暴行」に該当するか。
規範
刑法95条1項にいう「暴行」とは、公務員に対して加えられる有形力の行使を指すが、その態様は直接公務員の身体に加えられるもの(直接暴行)に限定されず、公務員に向けられたものである限り、その身体に直接接触しない間接的な態様(間接暴行)も含まれる。
重要事実
被告人らは、公務員の職務執行に際し暴行を及ぼしたとして公務執行妨害罪等で起訴された。弁護人は、当該暴行が公務員の身体に直接加えられたものではないことを理由に、同罪の成立を否定する旨の法令違反を主張して上告した。なお、具体的な事案の詳細は本判決文からは不明であるが、先行する判例(昭和26年3月20日判決)等を引用しつつ、暴行の概念について判断が示された。
あてはめ
公務執行妨害罪は公務の円滑な遂行を保護法益とするものである。この趣旨に照らせば、暴行は公務員の身体に直接加えられる必要はなく、物理的な有形力の行使が公務員に向けられ、その公務執行を妨害し得る状態にあれば足りると解される。本件においても、直接的な身体接触がないとしても、公務員に向けられた有形力の行使があった以上、同条の「暴行」に該当すると評価される。
結論
刑法95条1項にいう暴行は直接公務員の身体に対するものであることを要しない。したがって、被告人らに公務執行妨害罪の成立を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…
公務執行妨害罪の「暴行」は広義の暴行(物に対するものであっても公務員に向けられていればよい)を指すとする、実務上確立した解釈を示す最重要判例の一つである。答案上は、公務員の身辺で物を損壊する行為や、至近距離での威嚇的な有形力行使について、本判決を根拠に「直接公務員の身体に対するものであることを要しない」と示し、あてはめを行うべきである。
事件番号: 昭和30(あ)3951 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
刑法九五条は公務員を特別に保護する規定ではなく、公務員によつて執行される公務を保護するものであるから、論旨は同条の保護法益に関する誤つた見解に立つものであつて、違憲の主張はその前提を欠くものである。(最高裁判所判例集七巻一〇号一八八三頁参照)