罵声を浴びせながら一方的に抗議する過程において、丸めた紙を相手方の顔面付近に突きつけてその先端をあごに触れさせ、相手方の座つているいすを揺さぶつた行為及び相手方がいすから立ち上がるのを阻止するためその手首を握つた行為は、いずれも公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たる。
公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たるとされた事例
刑法95条1項
判旨
公務執行妨害罪(刑法95条1項)にいう「暴行」とは、公務員に対し不法な物理力を行使することをいい、必ずしも身体に直接接触することを要しない。罵声を浴びせながら椅子を揺さぶり、あるいは手首を握って立ち上がりを阻止する行為は、同罪の暴行に該当する。
問題の所在(論点)
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「暴行」の意義。特に、直接的な殴打に至らない程度の物理力の行使(椅子を揺さぶる、手首を握る等)が同罪の暴行に該当するか。
規範
刑法95条1項にいう「暴行」とは、公務員に対し不法な物理力を行使することを指す。これは公務員の身体に対する直接的な接触がある場合に限られず、その身体に物理的影響を与える態様のもの、あるいは身体に向けられた不当な有形力の行使を広く含むと解される。
重要事実
被告人A及びBは、兵庫県庁の融資相談窓口において、担当職員Cの説明に不満を抱き、「どあほ」等と罵声を浴びせた。その際、Aは激高して丸めたパンフレットをCの顔面付近に突きつけ(一部あごに接触)、Cが座っていた椅子のメモ台を両手で持ち上げては落とす動作を2回繰り返し、Cの身体を揺さぶった。また、BはCが立ち上がろうとした際、その右手首を握ってこれを阻止した。
あてはめ
被告人Aの行為は、激高した態度で罵声を浴びせながら、Cの至近距離で物を突きつけ、さらにはCが着座する椅子を持ち上げて落とし、その身体を大きく揺さぶったものである。これはCの身体に対する不当な有形力の行使といえる。また、被告人Bによる、立ち上がろうとするCの手首を握る行為も、公務員の身体の自由を制約する物理力の行使である。これらの行為は、一連の抗議過程でなされた物理的加害行為として、公務の円滑な執行を妨げるに足りる「暴行」に該当すると評価される。
結論
被告人らの各行為はいずれも刑法95条1項にいう暴行に該当し、公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、公務執行妨害罪における暴行が広範に認められることを示した。答案上は、直接的な接触がない場合(椅子を揺さぶる等)であっても、公務員の身体に物理的な影響を及ぼすものであれば「暴行」に当たると論じる際の根拠となる。また、暴行の有無を判断するにあたっては、単なる動作だけでなく、罵声を浴びせているといった周囲の状況(心理的圧力)も考慮要素となり得る点に留意が必要である。
事件番号: 昭和28(あ)2695 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」は、公務員に対し直接加えられるものであることを要せず、公務員に向けられた有形力の行使であれば間接的であっても同罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際し暴行を及ぼしたとして公務執行妨害罪等で起訴された。弁護人は、当該暴行が公務…
事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…