一 執行吏が債権者たる会社の職員を補助者に使用することは、執行吏執行等手続規則第一四条に違反するとはいえない。 二 刑法第九五条第一項に規定する公務執行妨害罪の成立には、公務員が職務の執行をなすに当り、その職務の執行を妨害するに足りる暴行脅迫がなされることを要するけれども、その暴行脅迫は、必ずしも直接に当該公務員自身に対して加えられることを要せず当該公務員の指揮に従いその手足となり、その職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされるものでもよい。
一 執行吏が債権者たる会社の職員を補助者に使用することは執行吏執行等手続規則第一四条に違反するか 二 刑法第九五条第一項にいう暴行脅迫の程度およびその客体。
執行吏執行等手続規則14条,刑法95条1項
判旨
刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」は、公務員の身体に直接加えられる場合に限らず、公務員の指示を受けその手足として職務に従事する補助者に対して加えられた場合も含まれる。また、執行吏の補助者として債権者の職員を使用することは、直ちに当該執行行為を違法とするものではない。
問題の所在(論点)
1. 公務員本人ではなく、その補助者に対して加えられた暴行が刑法95条1項の「暴行」に該当するか。 2. 債権者の職員を執行補助者として使用した執行行為が「適法な公務」といえるか。
規範
1. 公務執行妨害罪における暴行の対象について:刑法95条1項の暴行は、公務員の身体に対して直接加えられる場合に限られない。公務員の指揮に従い、その手足となって職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合も、公務員の職務の執行を妨害するに足りるものであれば、同条の暴行に該当する。 2. 執行行為の適法性(補助者の適格)について:執行吏の補助者は執行吏の機関として関与するものであり、立会証人(執行吏執行等手続規則15条)とは性質が異なる。そのため、債権者の職員を補助者として使用したとしても、そのことのみをもって執行行為が直ちに違法となるものではない。
重要事実
執行吏Bが被告人宅において家財道具の搬出による民事執行を指揮していた際、債権者であるA株式会社の職員Cを補助者として使用した。被告人は、執行吏Bの命により搬出作業に従事していたCに対し、暴行および脅迫を加えた。この影響により、出入口付近で指揮を執っていた執行吏Bは、一時的に執行の中止を余儀なくされた。
あてはめ
1. 補助者Cは、執行吏Bの命を受けその指示に従って家財搬出という職務の一部を担っており、Bの「手足」として職務執行に密接不可分に関与していたといえる。したがって、Cへの暴行は実質的に執行吏Bの職務執行を妨害するものであり、同条の暴行に該当する。 2. 補助者は執行吏の機関として機能するものであり、中立性が要求される立会証人とは異なる。債権者の職員を補助者とすることは、事件の適正処理の観点から望ましくない面はあるものの、規則14条の法意に照らせば直ちに違法とはいえない。ゆえに、本件執行行為は適法な公務の執行であったと認められる。
結論
被告人の行為は、公務員である執行吏の職務の執行を妨害する暴行に該当し、公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
公務員以外の者に対する暴行が問題となる事例(民事執行の補助者、警察官の職務を補助する民間人等)において、その補助者が公務員の「手足」として密接不可分に関与しているかを判断する際の基準として活用できる。答案上は、補助者の属性よりも、公務員の指揮監督下で実質的に職務の一部を担っているかという実態を重視してあてはめるべきである。
事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…
事件番号: 昭和30(あ)3951 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
刑法九五条は公務員を特別に保護する規定ではなく、公務員によつて執行される公務を保護するものであるから、論旨は同条の保護法益に関する誤つた見解に立つものであつて、違憲の主張はその前提を欠くものである。(最高裁判所判例集七巻一〇号一八八三頁参照)