駅の助役が、その職務行為である点呼の執行を終了した直後に、その点呼を行なつた場所およびその出入口付近で暴行をうけた場合には、同助役がその後同所から数十米離れた助役室において事務引継という職務行為を執行することになつているときであつても、右暴行は刑法九五条一項にいう「職務ヲ執行スルニ当リ」加えられたものとは認められない。
駅の助役に対する暴行が刑法九五条一項にいう「職務ヲ執行スルニ当リ」加えられたものとは認められないとされた事例
刑法95条1項
判旨
刑法95条1項の「職務を執行するに当り」とは、具体的・個別的に特定された職務の執行中、または執行に時間的に接着し切り離し得ない一体的関係にある場合を指す。別個の職務へ移行する間の移動時間は、原則として保護の対象に含まれない。
問題の所在(論点)
刑法95条1項にいう「職務を執行するに当り」の意義、および具体的・個別的な職務の間に行われる移動時間が同条の保護対象に含まれるか。
規範
刑法95条1項の趣旨は、公務員の身分そのものではなく、行われる公務の適正な執行を保護する点にある。したがって、保護対象となる職務は具体的・個別的に特定されている必要があり、単なる勤務時間中の行為すべてを指すのではない。同条にいう「職務を執行するに当り」とは、①具体的・個別的に特定された職務の執行を開始してから終了するまでの時間的範囲、および②当該職務の執行を開始しようとしている場合のように、職務執行と時間的に接着し、これと切り離し得ない一体的関係にあると認められる範囲内に限られる。
重要事実
国鉄(当時)の助役Aは、当直職務としてまず「点呼」を行い、次に数十メートル離れた助役室に移動して「事務引継ぎ」を行うことになっていた。Aが点呼を終えた直後、点呼場所の出入口付近で移動を開始しようとした際、被告人らから暴行を受けた。検察官は、点呼から事務引継ぎに至る一連の過程が公務執行にあたると主張して公務執行妨害罪で起訴した。
あてはめ
本件において、Aの具体的職務は「点呼」と「事務引継ぎ」として個別的に特定される。暴行が行われたのは「点呼」が終了した直後であり、かつ「事務引継ぎ」が行われる助役室へ向かう予備的段階にすぎない。両事務は時間的に連続して行われる順序にあるものの、性質上は別個の事務である。したがって、点呼場所から助役室へ赴く移動行為は、特定された職務そのものの執行ではなく、また「事務引継ぎ」の執行と一体的関係にある着手時とも認められない。ゆえに、勤務時間中であっても、本件暴行は「職務を執行するに当り」なされたものとはいえない。
結論
Aに対する暴行は公務執行妨害罪の構成要件を満たさない。同罪の成立を否定した原審の判断は正当である。
実務上の射程
公務執行妨害罪における「職務」の範囲を限定的に解釈した重要判例である。答案上では、職務の「連続性」が主張される場面(本件のような移動中や休憩中)において、職務を個別具体的に特定した上で、時間的・場所的接着性および一体性を検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和23(れ)1699 / 裁判年月日: 昭和24年4月26日 / 結論: 棄却
一 小荷物の受付、計量、料金収納、プラツトホームへの運搬、列車への積卸し等小荷物に関するすべての業務を担当する小荷物駅手は、列車発着の直前においては待機の必要時に顕著であるから、列車発着の一七、八分前待機中の同駅手に対し暴行を加えたときは、公務執行妨害罪が成立する。 二 論旨は原判決が被害者の職名又は係を示しただけでそ…