一 小荷物の受付、計量、料金収納、プラツトホームへの運搬、列車への積卸し等小荷物に関するすべての業務を担当する小荷物駅手は、列車発着の直前においては待機の必要時に顕著であるから、列車発着の一七、八分前待機中の同駅手に対し暴行を加えたときは、公務執行妨害罪が成立する。 二 論旨は原判決が被害者の職名又は係を示しただけでその職務行爲の内容を具體的に判示しなかつたことを非難している、しかし原判決にはA驛の小荷物係驛手と判示してあるので、それが停車場における小荷物に關する業務であることが明らかである、證據として引用されている原審公判における被害者の供述(記録九九丁表)によれば右の驛における被害者出勤日の小荷物係は被害者B、唯一人であつたそのように驛員の少い停車場に於ては小荷物を扱う業務は細分して分擔することができないから小荷物の受付、計量、料金収納、プラツトホームへの運搬、列車への積卸し等小荷物に關する凡ての業務を被害者が唯一人で擔當していたものであることが推知される。これ等の業務を遂行するため、殊に何時來るかもしれない、小荷物託送者に應接して小荷物を授受するためには係員ば絶へず職場に待機していなければならない、原審公判廷に於て裁判長が「小荷物係は汽車の發着時は席にいて仕事をしなくてはならないのだね」と問うたのに対して被害者は「左様です」と答えているが、これは小荷物係の最も主要な業務を示すだけで業務がそれに限られるという譯のものではないことは、上の説明で明らかであろう、かように被害者の職務の内容は、原判示から自から推知せられるからこれを以て所論のように理由不備の違法あるものとは言い得ない。
一 列車発着の一七、八分前待機中の小荷物係駅手に対する暴行と公務執行妨害罪の成否 二 驛員の少い停車場における小荷物係驛手の職務内容
刑法95条1項,刑法95條
判旨
公務員が具体的な事務を現に処理していない場合であっても、職務の性質上、継続的に待機することが必要とされる職務については、その待機中も刑法95条1項にいう「職務を執行するに当たり」に該当する。
問題の所在(論点)
公務員が具体的な事務を現に処理していない「待機状態」にある場合、刑法95条1項の「職務を執行するに当たり」に該当するか。
規範
刑法95条1項の「職務を執行するに当たり」とは、公務員がその職務権限に基づいて現に職務を執行中であることを指す。もっとも、職務の性質上、特定の場所で継続的に待機し、発生する事務に適宜応接することが職務内容となっている場合には、具体的な事務を処理していない待機時間であっても、広く職務の執行中に含まれる。
重要事実
国鉄(当時)A駅の小荷物係である職員Bは、小荷物の受付、計量、運搬、列車への積卸し等の業務を一手に担っており、託送者の応接や列車発着時の作業に備えて絶えず職場で待機する義務があった。被告人は、列車発着の直前(発着の約17〜18分前)に、駅ホームにいたBを殴打し、さらに駅から約80メートル離れた場所に引き出して暴行を継続した。その間、実際に列車2本が発着したが、Bは業務を遂行できなかった。
あてはめ
Bの職務は、いつ来るか不明な小荷物託送者への応接や、定時性が極めて重要な列車の発着に備えるものであり、その性質上、職場で絶えず待機していることが不可欠な職務であった。被告人がBを連れ出したのは列車発着の直前であり、Bがまさに職務上の待機義務を履行すべき緊要な時間帯であったといえる。したがって、たとえ暴行開始時に具体的な授受業務等に直接着手していなかったとしても、Bは「担当業務に従事中」であったと評価される。
結論
Bは「職務を執行するに当たり」暴行を受けたものといえ、公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、公務の執行を「現になされている具体的行為」のみに限定せず、職務の性質に応じた「職務遂行の一環としての待機」にまで広げたものである。答案上は、警備職や窓口業務など、不特定多数への応対や緊急事態への備えが必要な職務において、休息時間等ではない「待機」を職務執行性と構成する際の根拠となる。
事件番号: 昭和53(あ)549 / 裁判年月日: 昭和54年1月10日 / 結論: 棄却
国鉄の気動車運転士が急行列車の運転室内で中継駅の運転士と業務の引継・交替を行い、運転当直助役の許に赴いて終業点呼を受けるため駅ホームを歩行していた際、右運転士に対して加えられた本件暴行は、公務執行妨害罪を構成する。