県議会委員長が委員会の休憩を宣言して退出しようとした場合であつても、なお審議に関して生じた紛議に対処するなどの職務に従事していたと認められる本件においては、その際委員長に対して加えられた暴行は公務執行妨害罪を構成する。
休憩宣言後の県議会委員長に対する暴行が公務執行妨害罪を構成するとされた事例
刑法95条1項
判旨
議会委員長が休憩を宣言して議場から退出しようとした際、なおも委員会室付近で発生した紛議に対処している場合には、職務の執行を終えたものではなく、依然として公務執行妨害罪の保護対象となる「職務」を執行中であると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「職務を執行するに当たり」の意義。具体的には、議会運営において休憩宣言がなされ、委員長が議場を離れようとしている過程での秩序保持行為が、依然として職務執行に含まれるか。
規範
刑法95条1項にいう「職務を執行するに当たり」とは、公務員が職務を執行中の場合はもとより、数個の連続した職務の合間や、職務執行に密接に関連する一連の行為を行っている場合も含まれる。議事の整理及び秩序保持の職責を有する者は、形式的に休憩を宣言した後であっても、現に発生している紛議に対処し秩序を保持しようとしている限り、依然としてその職務の執行中にあると解される。
重要事実
熊本県議会特別委員会のA委員長は、陳情に対する審議の打ち切りを告げ、昼食休憩を宣言して委員会室を退出して廊下に出た。その際、打ち切りに抗議する構成員ら合計約2、30名が、A委員長の退去を阻止すべく取り囲み、押す、引く、体当たりする、足蹴にするなどの暴行を加えた。被告人側は、休憩宣言により職務執行は既に終了していたと主張した。
あてはめ
A委員長は議事の整理及び秩序保持の職責を負う者であり、休憩宣言をしたものの、退出の際に発生した抗議行動という紛議に直面している。同委員長は、その職務上の権限に基づいて当該紛議に対処し、委員会の秩序を保持すべき状況にあったといえる。したがって、廊下での暴行を受けた時点においても、同委員長は休憩宣言により職務を終えたのではなく、右紛議に対処するための職務を「現に執行していた」と評価するのが相当である。
結論
A委員長に対する暴行は、公務員が職務を執行するに際して行われたものといえ、公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、公務の継続性・一連性を広く認める実務上の確立した基準(連続的公務)を示している。答案上は、形式的な休憩や中断があったとしても、本来の職務上の権限(本件では秩序保持権)が及ぶべき紛議等が継続している場合には、実質的に職務の執行中であると論証する際の根拠となる。
事件番号: 昭和59(あ)1036 / 裁判年月日: 平成元年3月9日 / 結論: 破棄自判
罵声を浴びせながら一方的に抗議する過程において、丸めた紙を相手方の顔面付近に突きつけてその先端をあごに触れさせ、相手方の座つているいすを揺さぶつた行為及び相手方がいすから立ち上がるのを阻止するためその手首を握つた行為は、いずれも公務執行妨害罪にいう「暴行」に当たる。