一 刑法九五条一項にいう職務には、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれる。 二 刑法九五条一項における職務の執行中であるか否かの判断に際しては、日本電信電話公社の電報局長の、局の事務全般を掌理し部下職員を指揮監督する職務及び同電報局次長の、局長を助け局務を整理する職務は、その性質上、その内容及び執行の過程を個別的に分断して部分的にそれぞれの開始、終了を論ずるべきではなく、一体性ないし継続性を有するものとして把握すべきである。 三 本件電報局長の、電報料金の収納等に関する会計書類の点検、決裁の職務及び本件電報局次長の、電報配達業務等に関する上部機関への報告文書作成の職務の各執行が事実上一時的に中断したとしても、その状態が被告人の不法な目的をもつた行動によつて作出されたものである場合には、刑法九五条一項における職務の執行は終了したものではない。 四 公務執行妨害罪の主観的成立要件としての職務執行中であることの認識があるというためには、行為者において公務員が職務行為の執行に当つていることの認識があれば足り、具体的にいかなる内容の職務の執行中であるかまで認識することを要しない。
一 刑法九五条一項にいう職務の範囲 二 刑法九五条一項における職務の執行中であるか否かの判断に際しその性質上ある程度継続した一連の職務として把握するのが相当であるとされた事例 三 刑法九五条一項における職務の執行が終了したものではないとされた事例 四 公務執行妨害罪の主観的成立要件としての職務執行中であることの認識の程度
刑法38条1項,刑法95条1項,日本電信電話公社法18条,日本電信電話公社法35条
判旨
公務執行妨害罪における「職務を執行するに当り」とは、職務の性質上一体性・継続性を有する場合、外観上の小休止中であっても職務執行中と解される。また、故意の成立には公務員が職務執行中であることの認識があれば足り、具体的な職務内容の認識までは不要である。
問題の所在(論点)
1. 公務員が暴行を受けた際、事務を一時中断して応対していた場合に「職務を執行するに当り」といえるか。 2. 公務執行妨害罪の故意として、具体的な職務内容の認識が必要か。
規範
1. 刑法95条1項の「職務ヲ執行スルニ当リ」とは、具体的職務の開始から終了までの間、およびこれと時間的に接着し切り離せない一体的関係にある範囲をいう。ただし、統括的職務のように性質上一体性・継続性を有するものは、個別的に分断せず一連の職務として把握すべきである。不法な妨害により一時的に中断した外観を呈しても、自発的放棄でない限り職務執行性は失われない。 2. 故意の成立には、公務員が職務の執行に当たっていることの認識があれば足り、具体的な職務内容の認識までは不要である。
重要事実
労働組合執行委員である被告人は、懲戒処分に抗議するため電報局長室等に闖入。会計書類点検中の電報局長に対し、耳元でガソリン空缶を連打する等の暴行を加えた(第一事実)。さらに約1時間後、報告書作成中の電報局次長に対し、空缶連打や「しっぺ」等の暴行を加え、制止に入った局長に対しても突き飛ばす等の暴行を加えた(第二事実)。下級審は、暴行時に公務員らが応対のため職務を中断していたこと等を理由に、公務執行妨害罪の成立を否定した。
あてはめ
1. 電報局長等は局務全般を掌理・補佐する統括的職務権限を有しており、その職務は性質上一体性・継続性を有する。被告人の暴行により事実上一時中断せざるを得なくなったとしても、自ら職務を放棄・離脱したものではない以上、なお継続的な職務執行中といえる。 2. 被告人は面会申込もなく突如闖入しており、局長らが電報局の事務管理という職務を執行中であることは認識していた。具体的職務(会計点検や報告書作成等)の内容まで認識していなくとも、職務執行中の認識に欠けるところはない。
結論
被告人の行為は公務執行妨害罪を構成する。原判決および第一審判決を破棄し、被告人を懲役3年(執行猶予1年)に処する。
実務上の射程
職務執行の「時間的範囲」に関する重要判例。警察官の職務質問から連行に至る一連の過程など、職務の継続性が問題となる場面で、職務を細分化して否定しようとする弁護側の主張を封じる規範として機能する。また、故意の対象を「具体的職務内容」まで広げないことで、犯罪の成立範囲を確保している。
事件番号: 昭和34(あ)2163 / 裁判年月日: 昭和35年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察官が職務の執行に着手したことが明らかな場合、逮捕の際に行われるべき被疑事実の要旨や令状発布の事実の告知が未了であっても、その職務執行は適法であり、これに対して暴行を加えた場合には公務執行妨害罪が成立する。 第1 事案の概要:巡査Aは、被告人が運転する自動車の客席に指名手配犯が乗車していることを…