判旨
警察官が職務の執行に着手したことが明らかな場合、逮捕の際に行われるべき被疑事実の要旨や令状発布の事実の告知が未了であっても、その職務執行は適法であり、これに対して暴行を加えた場合には公務執行妨害罪が成立する。
問題の所在(論点)
逮捕の際に行われるべき被疑事実の要旨や令状発布の事実の告知がなされていない段階において、警察官の行為が「職務の執行」として適法性を有し、公務執行妨害罪の保護対象となるか。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「公務」の適法性は、客観的要件(法令上の権限、適法な手続・方式、職務遂行の必要性)を満たすことで認められる。強制処分としての逮捕に伴う告知等の手続が未了であっても、既に公務執行の着手が認められ、かつ当該着手が適法である限り、当該公務は同罪の保護対象となる。
重要事実
巡査Aは、被告人が運転する自動車の客席に指名手配犯が乗車していることを発見し、被告人に対し「待て、おれは警察の者だが客席に乗っている者は指名犯人だ、逮捕するんだから自動車を止めてくれ」と申し向けた。その後、巡査Aが具体的な逮捕の告知(被疑事実の要旨や令状発布の事実)を行う前に、被告人による妨害行為が発生した。
あてはめ
巡査Aは、被告人に対して自己が警察官であること、及び同乗者が指名手配犯であり逮捕することを明確に告げている。この言動により、巡査Aが客観的に適法な権限に基づいて公務の執行に着手したことは明らかである。したがって、乗車中の被疑者に対して個別に被疑事実の要旨や令状発布の事実を告げる前であっても、巡査Aの行為は適法な公務の執行といえる。これに対し妨害を加える行為は、公務執行妨害罪を構成する。
結論
被疑事実の要旨等の告知がなくても公務の執行に着手したことが明らかであれば、公務執行妨害罪は成立する。本件上告は棄却される。
実務上の射程
逮捕手続において、告知等の実体的・適法要件が完結する前の「着手」段階における適法性を認めた。答案上は、職務質問から逮捕に移行する際や、緊急を要する執行現場での適法性を論じる際、手続きの不備が直ちに職務の違法を導くものではないことを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)3096 / 裁判年月日: 昭和28年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察官が上司の命を受け、現行犯人を適法に逮捕しようとした際に、これを阻止する目的で暴行を加えた場合、公務執行妨害罪が成立する。 第1 事案の概要:福岡市警察局勤務の巡査Aは、上司の命を受け、Bを公務執行妨害の現行犯として適法に逮捕しようとしていた。被告人は、この逮捕を阻止しようと考え、持っていた旗…