判旨
公務執行妨害罪における職務の適法性は、上級公務員の命令を受けた補助公務員が、その命令の意図や実質的な適否に関わらず、自己の職務権限の範囲内で当該命令を執行する限り、原則として肯定される。
問題の所在(論点)
刑法95条1項の「適法な」公務といえるためには、公務員がその公務の実質的意図や法的根拠の適否まで認識・精査している必要があるか。特に、上司の命令を執行する補助公務員の行為の適法性が、上司の意図や制度上の強制の可否に依存するかが問題となる。
規範
刑法95条1項にいう「職務を執行するに当り」とは、当該職務行為が法令上の職務権限に属し、かつ、その具体的実施について法律上の要件・手続を具備していることを要する(適法性)。もっとも、上司の命令に基づく補助公務員の行為については、当該命令が当該公務員の一般的職務権限に属する事項であり、かつ、外形上適法な手続きに従っている限り、上級者の主観的意図や実質的な適否に関わらず、その執行行為は適法な職務執行と解される。
重要事実
大阪刑務所の第三区長Bは、受刑者である被告人に対し、監獄法施行規則に基づき所長代理として諭告(説諭)を行うため、看守Aらに被告人の連行を命じた。しかし、Bは命令に際して諭告の意図を告げず、看守Aらもその意図を知らないまま、単に上司の連行命令を執行するために被告人を監房から区長室へ連行しようとした。その際、被告人はAらに対し暴行を加えて負傷させ、連行を妨害した。被告人側は、強制的な連行による諭告の適否を争い、職務の適法性を欠くと主張した。
あてはめ
本件において、看守Aらの職務は上司であるB区長の命令に基づく受刑者の連行であった。受刑者の連行自体は看守の一般的職務権限に属する。B区長が諭告を目的としていたことや、その制度上強制連行が許されるかという実質的な適否に関わらず、Aらはその意図を知らずに単に上示の連行命令を執行していたに過ぎない。したがって、Aらが自己の権限内で上示の命令に従い行動したことは、外形的に適法な職務の執行にあたる。これに対し暴行を加えた被告人の行為は、職務の適法性を阻害するものではない。
結論
A看守による連行行為は適法な職務執行にあたり、これに暴行を加えた行為は公務執行妨害罪(刑法95条1項)を構成する。
実務上の射程
本判決は、補助公務員による命令執行の局面において、職務の適法性を「抽象的職務権限」と「命令の執行」という枠組みで緩やかに肯定する傾向を示す。答案上は、職務の適法性の判断基準(抽象的権限、具体的権限、有効な手続き)を立てた上で、本事案のように「現場の執行者」の視点から適法性を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)4409 / 裁判年月日: 昭和30年7月19日 / 結論: 棄却
巡査から挙動不審者として職務質問を受け、派出所まで任意同行を求められた者が、突如逃走した場合に、巡査が単に職務質問をしようとして追跡しただけでは、人の自由を拘束したものではなく、巡査の職務行為として適法である。