法令により公務に従事する者とみなされる日本国鉄道職員であつて労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために、職務の執行が具体的権限を欠いて違法となり、その者に対する公務執行妨害罪の成立が妨げられるものではない。
労働基準法所定の労働時間の制限を超える公務の執行と公務執行妨害罪の成否
刑法7条,刑法95条1項,日本国有鉄道法34条1項,労働基準法32条1項
判旨
労働基準法上の労働時間制限に違反する職務命令であっても、それが公務員等に対し職務執行の具体的権限を付与する性質を有する以上、その職務執行が直ちに違法となるものではなく、公務執行妨害罪の保護対象となる。
問題の所在(論点)
労働基準法の労働時間制限に違反して行われた公務員の職務執行に、刑法95条1項の「適法な」公務としての保護が認められるか。職務命令の効力と具体的執行権限の有無が問題となる。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における職務の「適法性」は、①当該公務員に当該行為をなすべき抽象的権限があること、②具体的職務執行の権限があること、③職務執行の有効要件である法律上の重要手続を履践していること、の三要件により判断される。労働基準法32条1項の労働時間制限は、使用者対労働者間の労働関係を規制する強行規定であって、職務執行の権限付与そのものを直ちに否定する性質のものではない。したがって、労働時間制限に違反する職務命令に基づく就労であっても、具体的権限を付与する性質の部分の効力は失われず、職務の適法性は肯定される。
重要事実
日本国有鉄道(当時)の職員Bは、組合員による違法行為の阻止等のため、時間制限のない職務命令を受け、午前6時から継続して勤務していた。Bが午後2時40分頃、列車に貼られたビラを取り剥がす作業に従事していた際、被告人がBの顔面を殴打し傷害を負わせた。労働基準法32条1項が定める1日8時間の制限に基づけば、Bの適法な労働時間は午後2時に終了していたとして、その後の職務執行の適法性が争点となった。
あてはめ
本件職務命令は、Bに対し労働関係上の義務を課すだけでなく、当該職務を執行する具体的権限を付与する性質を有する。労働基準法32条1項の趣旨は労働者保護にあり、労働者と第三者との間の法律関係に直ちに影響を及ぼすものではない。よって、時間外労働を命じた部分に強行法規違反があったとしても、それはBに就労を強制する義務的部分の効力に影響し得るにとどまり、職務執行の権限を付与する部分の効力まで失わせるものではない。本件Bの行為は国鉄の正当な事業活動の範囲内であり、態様も不当ではないため、適法な職務執行といえる。
結論
被告人の行為には公務執行妨害罪および傷害罪が成立し、両罪は観念的競合(刑法54条1項前段)となる。
実務上の射程
労働法上の規制違反が公務の適法性に及ぼす影響を限定的に解した重要判例である。答案上は、公務の適法性判断において「具体的権限の有無」を検討する際、内部的な労働規制の違反は直ちに外部的な職務執行の権限(適法性)を否定しないという論理で活用できる。ただし、公務員個人の具体的権限を基礎づける法令や命令の効力を丁寧に検討する姿勢を示すことが重要である。
事件番号: 昭和49(あ)1000 / 裁判年月日: 昭和50年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】鉄道公安職員が、就労意思を有する運転士を保護・誘導する行為は、本人の意思に反しない限り適法な職務執行に当たり、これに対して暴行を加える行為は公務執行妨害罪を構成する。 第1 事案の概要:日本国有鉄道の運転士Aは、退区点呼終了まで業務を遂行する意思を有していた。鉄道公安職員は、組合側による説得や確保…