判旨
労働争議の場において、警察官が適法に公務を執行している際に、暴行を加える行為は公務執行妨害罪を構成し、憲法28条の労働基本権によっても正当化されない。
問題の所在(論点)
労働争議の場面における警察官の制止・鎮撫行為が公務執行妨害罪の保護対象となる適法な公務といえるか。また、同罪の適用が憲法28条に抵触しないか。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)における「職務を執行するに当たり」とは、公務員がその職務権限に属する行為を適法に開始・継続している状態を指す。憲法28条が保障する団体交渉等の労働基本権は、不法な警察介入を排除する趣旨を含むものの、適法な職務執行に対して暴行・脅迫を加えることまでを許容するものではない。
重要事実
被告人Bらは、労働争議の現場において警備にあたっていた警察職員が、騒乱の首謀者を検挙し始めた際に騒ぎ出した。その際、被告人Bは、制止鎮撫の任務にあたっていた警察署長の右上膊部に咬みつき、全治不明の咬傷を負わせた。弁護人は、警察官の介入が不当であり、本罪の成立を認めることは憲法28条に違反すると主張した。
あてはめ
本件において警察署長が行っていた制止鎮撫の職務は、現場の混乱を収拾するための適法な権限行使である。被告人側が主張するような「警察官による不当な団体交渉への介入」という事実は認められない。したがって、適法な職務執行にあたっている警察官に対し、「咬みつく」という暴行を加えた行為は、公務執行妨害罪の構成要件を充足する。このような暴力的な手段による抵抗は、労働基本権の行使として正当化される範囲を逸脱している。
結論
被告人Bに公務執行妨害罪が成立するとした原判決に憲法違反はなく、妥当である。
実務上の射程
労働争議に伴う刑事責任の有無が争われる事案において、警察の介入が不法なものでない限り、公務執行妨害罪の成立を認める際の基準となる。答案上は、職務の適法性を前提とした上で、手段の相当性(暴力の有無)に着目して正当行為の成否を論じる際の指針となる。
事件番号: 昭和35(あ)2860 / 裁判年月日: 昭和37年1月23日 / 結論: 棄却
一 K小学校教諭でF県教職員組合の役員が、同組合の勤務成績評定の実施等に反対する斗争に関連し、同校教諭で右組合員である甲の組合活動に非協力的な態度に憤慨して、甲を難詰し、両者が押問答をしているうち、甲が教室に入り、児童に対し自習および清掃をするように指示していたところ、そのあとを追つて同教室に入り、甲に対し「まだ話は終…
事件番号: 昭和26(あ)3297 / 裁判年月日: 昭和28年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本判決は、事実誤認の主張や逮捕時の警察官の行動に対する非難は、憲法違反をいうものであっても適法な上告理由には当たらないとしている。 第1 事案の概要:被告人が逮捕された際、警察官が何らかの行動をとったが、弁護人はその逮捕当時の警察官の行動を非難し、併せて憲法違反や事実誤認を主張して上告を申し立てた…
事件番号: 昭和27(あ)4473 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合等の活動が刑法上の正当行為(刑法35条)として違法性を阻却されるためには、その行為が憲法28条の趣旨に照らし、正当な団体交渉の目的達成のために必要かつ相当な範囲内で行われることが必要である。 第1 事案の概要:被告人らの所為が刑法上の犯罪構成要件に該当する一方で、被告人側は当該行為が憲法2…