一 K小学校教諭でF県教職員組合の役員が、同組合の勤務成績評定の実施等に反対する斗争に関連し、同校教諭で右組合員である甲の組合活動に非協力的な態度に憤慨して、甲を難詰し、両者が押問答をしているうち、甲が教室に入り、児童に対し自習および清掃をするように指示していたところ、そのあとを追つて同教室に入り、甲に対し「まだ話は終つていない。」といつて迫り、「生徒が見ていますから、やめて下さい。」といつて制止する甲の右手首を右手でつかみ、無理に教室外に連れ出そうとして引つ張つたので、甲が椅子とともに倒れたのを、なおもその手首をつかんだまま廊下に連れ出し、さらにその手を引つ張つて同校資料室に連れ込むなどの暴行を加えた所為は、たとえ右組合の団結統制力の行使としてなされたものであつても、これを正当な行為であるとはいえない。 二 刑法第九五条にいわゆる暴行とは、公務員に対し、直接であると間接であるとを間わず不法な攻撃を加えることをいう。
一 県教職員組合役員の組合員に対する所為が正当行為といえない事例 二 刑法第九五条にいわゆる暴行の意義
刑法35条,刑法95条,憲法28条,労働組合法1条2項
判旨
憲法28条の保障する労働基本権も公共の福祉による制限を受け、特に国民全体の奉仕者たる公務員については、その権利行使が社会通念上許容される限度を超える場合には違法となり、公務執行妨害罪を構成し得る。
問題の所在(論点)
地方公務員法が適用される職員による団体行動が、刑法上の違法性を阻却する「正当な行為」として認められるための限界はどこにあるか。また、公務員の身体に対する不法な攻撃は刑法95条1項の「暴行」に該当するか。
規範
労働基本権(憲法28条)は公共の福祉のために制限を受け、公務員は国民全体の奉仕者(憲法15条)として職務に専念すべき性質上、一般の勤労者とは異なる特別な取扱を受ける。権利実行行為が正当とされるのは、それが権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に許容される限度を超えない場合に限られ、この範囲を逸脱する行為は違法性を有する。
重要事実
福島県教職員組合に所属する被告人が、公務員の職務執行に際し暴行を加え、公務執行妨害罪(刑法95条1項)に問われた。被告人側は、地方公務員法により労働組合法1条1項等の適用が排除されているものの、本件行為は憲法28条に基づく正当な団体行動であり違法性が阻却されると主張して上告した。
あてはめ
地方公務員法58条1項により労働組合法は教職員に適用されず、同法55条1項の交渉も労組法上の団体交渉権ではない。被告人の所為は、公務員の身体に対し直接・間接を問わず不法な攻撃を加えるものであり、同法にいう「暴行」に該当する。このような行為は、公務員の職務専念義務や公共の利益に照らし、社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱しているため、正当な行為とは認められない。
結論
被告人の行為は社会通念上の許容限度を超え、正当な団体行動とはいえないため、公務執行妨害罪の成立を認めた原判決は妥当である。
実務上の射程
公務員の労働基本権の制約に関する初期の判断枠組みであり、全逓東京中郵判決等の「二分論」以前の「全体的制限」に近い法理を示す。現在では、争議行為の合憲性についてはより精緻な判断枠組み(全農林警職法事件等)が用いられるが、有形力の行使が正当な行為の限界を逸脱するとの論理は実務上今なお基礎となる。
事件番号: 昭和38(あ)2256 / 裁判年月日: 昭和40年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員による組合活動であっても、その手段が暴行を伴うなど社会通念上許容される限界を超える場合は、当然に違法性が阻却されるものではない。また、争議行為を禁止する規定自体の違憲性は、当該暴力的な行為の違法性判断を左右しない。 第1 事案の概要:国家公務員である被告人らは、勤務時間内職場集会への参加…