乗務員を保護警備する職務を執行中の鉄道公安職員に対する暴行が公務執行妨害とされた事案につき、憲法三一条、二八条、一八違反の主張がいずれも欠前提とされた事例
憲法31条,憲法28条,憲法18条
判旨
鉄道公安職員が、就労意思を有する運転士を保護・誘導する行為は、本人の意思に反しない限り適法な職務執行に当たり、これに対して暴行を加える行為は公務執行妨害罪を構成する。
問題の所在(論点)
鉄道公安職員が、内部規程(鉄道公安職員基本規程)に基づき、法律上の対人的強制力の根拠なく運転士を保護・誘導する行為が、公務執行妨害罪の前提となる「適法な職務執行」に当たるか。また、組合活動の排除が憲法28条等に違反しないかが問題となる。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)の客体となる「職務」が適法であるためには、当該公務員の抽象的・具体的職務権限に属し、かつ有効な手続・形態を備えている必要がある。特に、本人の保護や誘導を目的とする活動において、強制力を行使せず本人の意思に反しない態様でなされる行為は、職務の範囲内として適法性を有する。
重要事実
日本国有鉄道の運転士Aは、退区点呼終了まで業務を遂行する意思を有していた。鉄道公安職員は、組合側による説得や確保を排除し、Aを保護してその就労を確保するため、Aの腕を取って運転当直助役室へ誘導しようとした。この誘導行為はAの意思に反するものではなかった。被告人は、この職務執行中の鉄道公安職員に対し、暴行を加えた。
あてはめ
まず、鉄道公安職員の行為は、対人的な強制力を行使したものではなく、本人の意思に反しない形での保護・誘導に留まっている。事実として、A運転士は業務遂行の意思を有しており、職員の誘導もAの意思に反しないものであったから、憲法31条や18条、労働基準法5条等に抵触する強制的な身体拘束には当たらない。また、就労意思のある職員を保護し就労を確保する行為は、正当な業務の範囲内であり、組合側の団結行動を不当に排除するもの(憲法28条・労組法7条3号違反)とはいえない。したがって、本件誘導行為は適法な職務執行であると評価される。
事件番号: 昭和49(あ)1506 / 裁判年月日: 昭和50年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】鉄道営業法42条に基づく鉄道係員の排除権限は、違反行為の態様・程度に照らし真にやむを得ない場合に必要最小限度の有形力行使を含むが、身体に対する直接の実力行使(強制)までは原則として許されない。もっとも、人体で人垣を作り対象者を押し下げる程度の行為は、積極的な直接の実力行使に当たらず、同条に基づく適…
結論
鉄道公安職員の行為は適法な職務執行に該当するため、これに暴行を加えた被告人には公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、強制力を伴わない任意の保護・誘導行為が公務執行妨害罪の保護対象となる「職務」に含まれることを示している。答案上は、職務の適法性の判断において、強制力の有無や本人の同意・意思の有無を検討する際の考慮要素として活用できる。特に、明確な法律上の強制根拠がなくとも、任意的手段による保護目的の行為であれば適法性が認められやすいことを示唆する。
事件番号: 昭和38(あ)515 / 裁判年月日: 昭和39年8月25日 / 結論: 棄却
鉄道公安職員は、日本国有鉄道法第三四条第一項により法令により公務に従事する者とみなされ、犯罪捜査のほか、鉄道公安職員基本規程により、鉄道業務の円滑な遂行のためこれを侵害するものを排除するなど警備的職務に従事するものであるから、その職務の執行にあたり、これに対して暴行を加えたときは、公務執行妨害罪が成立するものと解するの…