巡査から挙動不審者として職務質問を受け、派出所まで任意同行を求められた者が、突如逃走した場合に、巡査が単に職務質問をしようとして追跡しただけでは、人の自由を拘束したものではなく、巡査の職務行為として適法である。
警察吏員の職務執行(いわゆる職務質問)として許される一事例
憲法33条,憲法35条,警察官等職務執行法2条
判旨
職務質問を受け、任意同行を求められた者が逃走した際、警察官が更なる職務質問のために追跡する行為は、人の自由を拘束するものではなく、警察官職務執行法上の職務行為として適法である。
問題の所在(論点)
職務質問および任意同行の要求を拒絶して逃走した者を、警察官が追跡する行為は、警察官職務執行法2条3項に抵触しない適法な職務執行といえるか。
規範
警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問において、同行を拒否して逃走した者を更なる職務質問のために追跡する行為は、直ちに同条3項が禁止する強制的な「身体の拘束」には当たらない。かかる追跡は、職務質問を継続するための付随的行為として適法な職務執行の範囲内に含まれる。
重要事実
被告人は、夜間に公園で密談中に警察官から挙動不審者として職務質問を受けた。所持品に関する応答中、最寄りの派出所までの任意同行を求められたが、突如として逃走を開始した。警察官が職務質問を継続しようとして被告人を追跡し、近寄ったところ、被告人は警察官らに対して足蹴にする等の暴行を加え、傷害を負わせた。この行為が公務執行妨害罪(刑法95条1項)に該当するか、警察官の追跡行為の適法性が争点となった。
あてはめ
本件において警察官は、挙動不審者である被告人に対し適法に職務質問を開始し、その過程で任意同行を求めたものである。これに対し被告人が突如逃走したため、警察官が更なる職務質問を行う目的で追跡を開始したに過ぎない。この追跡行為自体は、相手方を物理的に制圧し、あるいはその自由を奪うような強制的な手段を用いた事実は認められない。したがって、単なる追跡は人の自由を不当に拘束する強制処分には該当せず、警察官の職務行為として適法であると解される。
結論
警察官の追跡行為は適法な公務の執行であり、これに対して暴行を加えた被告人の行為は公務執行妨害罪を構成する。被告人の上告は棄却される。
実務上の射程
職務質問における「付随的行為」の適法性が争われる場面で活用できる。任意同行の拒否(逃走)後であっても、有形力の行使に至らない程度の追跡であれば、職務質問の延長として適法とされる。公務執行妨害罪の成否において、前提となる公務の適法性を肯定する際の根拠として重要である。
事件番号: 昭和34(あ)1303 / 裁判年月日: 昭和34年10月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務執行妨害罪における職務の適法性は、上級公務員の命令を受けた補助公務員が、その命令の意図や実質的な適否に関わらず、自己の職務権限の範囲内で当該命令を執行する限り、原則として肯定される。 第1 事案の概要:大阪刑務所の第三区長Bは、受刑者である被告人に対し、監獄法施行規則に基づき所長代理として諭告…