午後一時二〇分頃、警ら中の警察史員が一通行人の服装、年令、態度、携帯品などから推して、当時同一警察署管内に頻発していた窃盗事件に関係がありはしないかとの疑を抱き、これを呼び止めて職務質問をなし、更にその所持に係る風呂敷包みの内容について呈示を求めたところ、同人が俄かに歩きはじめ更に逃げ出す等の異常の態度を示すに至つたときは、これが停止を求め職務質問を続行するためにその跡を追いかけても、警察吏員として正当な職務執行の範囲を超えたものとはいえない。
警察吏員の職務執行(いわゆる職務質問)として許容される一事例
憲法35条,警察法1条,警察官職務執行法2条
判旨
職務質問において、不審点のある相手が逃走した際に警察官がその跡を追いかける「追跡」は、相手の位置に接近するための自然な行動であり、強制手段や逮捕には当たらない。また、所持品の呈示を求める行為が強要に至らない任意の働きかけである限り、職務質問に伴う適法な行為として認められる。
問題の所在(論点)
職務質問を免れようとして逃走する被疑者を警察官が追跡する行為が「強制手段」や「逮捕」に該当し違法とならないか。また、所持品呈示の要求が許容される限度はどこにあるか。
規範
職務質問(警職法2条1項)に伴う事後的措置において、相手方の位置に接近するための単なる「追跡」は、強制の手段を用いたもの(刑訴法197条1項但書)には当たらず、逮捕(同199条等)にも該当しない。また、所持品検査についても、相手方の自由を制圧し、又はその意思を強圧するような「強要」に至らない限度での任意の呈示要求であれば、適法な職務執行の範囲内となる。
重要事実
巡査らは、深夜、被告人の服装や態度、携帯品から窃盗事件の関与を疑い職務質問を行った。被告人は風呂敷包みの内容呈示を求められるや否や、俄かに歩き出し、さらに逃げ出すなどの異常な態度を示した。これに対し、巡査らは停止を求めるために被告人を追いかけた。なお、記録上、巡査らが所持品の呈示を強要した事実は認められず、あくまで任意の呈示を求めていた。
あてはめ
まず、追跡行為についてみるに、被告人が提示を求められて逃走したという異常な態度に照らせば、警察官が疑念を強めて跡を追いかけるのは当然の成り行きである。この追跡は相手方の位置に接近するための自然かつ必要な行動に過ぎず、物理的な強制力をもって相手を制圧するものではないから、強制手段や逮捕とは認められない。次に、所持品検査についても、被告人に対し内容の提示を強要した事実はなく、あくまで任意の呈示を求めたに過ぎないため、職務質問の付随行為として適法であるといえる。
結論
本件追跡行為は強制手段や逮捕に当たらず、所持品呈示の要求も任意によるものであるから、一連の職務執行は適法である。
実務上の射程
本判決は、職務質問における追跡が「強制」に当たらないことを明確にした初期の重要判例である。答案上は、警職法上の「停止させて」の意義や、職務質問に付随する「必要な限度」での有形力行使(追跡・呼びかけ)の適法性を論じる際の基礎となる。後の米杉事件判決(最決昭53.6.20)等の「適正な限度」論へ繋がる文脈で理解すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)3491 / 裁判年月日: 昭和27年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公務員の職務執行に際して逃走を試みた行為が、単なる放任行為にとどまらず公務執行妨害罪の構成要件を具備すると判断した事案である。 第1 事案の概要:被告人が、公務員による職務執行(詳細は判決文からは不明)の際、現場から逃走しようとして行為に及んだ。弁護側は、当該行為が単なる逃走のための「放任…