収税官吏が令状を被告人に示さなかつたことは論旨主張のとおりであるが、右は収税官吏が臨検捜索をなさんとしたとき被告人が不在であつたので警察吏員立会のもとにこれを開始したが、その執行の途中で被告人が帰宅するや、これを見た被告人は痛く憤慨して収税官吏に暴行を加えたので令状を被告人に示すことができなかつたためであるときは、令状を示さなかつた違法があるとはいえない。
刑訴第四一一条にあたらない一事例−収税官吏が臨検捜索にあたり被告人の暴行により令状を示すことができなかつた場合
刑訴法110条,刑訴法411条,国税犯則取締法2条,国税犯則取締法6条,刑法95条
判旨
臨検・捜索・差押えの執行にあたり、不在のため提示できず執行を開始した後に帰宅した被処分者が暴行を加えて提示を困難にさせた場合には、令状提示がないまま執行を継続しても適法であり、公務執行妨害罪が成立する。
問題の所在(論点)
令状による執行において、被処分者が不在のため提示せずに開始し、その後の帰宅時にも被処分者の暴行により提示できなかった場合、当該執行は「職務の適法性」を欠き、公務執行妨害罪(刑法95条1項)の成立が否定されるか。
規範
令状による強制処分を行う際、処分を受ける者に令状を提示すべきであるが、執行開始時に被処分者が不在であり、かつ執行の途中で帰宅した被処分者が暴行を加えるなどして令状の提示を不可能あるいは著しく困難にした場合には、令状を提示せずになされた執行であっても、直ちに違法とはならない。
重要事実
収税官吏らが被告人宅において臨検・捜索・差押えを執行する際、あらかじめ許可状を携行していた。開始時に被告人が不在であったため、警察吏員立会のもとで執行を開始した。その執行の途中で被告人が帰宅したが、被告人は帰宅するや否や激昂して執行官吏らに暴行を加えたため、官吏らは被告人に令状を提示することができなかった。被告人は差押えの執行が終了するまでの間にさらなる暴行を加えたとして、公務執行妨害罪で起訴された。
あてはめ
本件では、官吏らは正当な権限に基づき許可状を携行して執行に臨んでおり、当初の不在による提示不能は避けられない事態であった。さらに、被告人の帰宅後において提示がなされなかったのは、被告人自らが官吏らに対して暴行を加えたことに起因しており、物理的に提示が不可能な状況を被告人側が作り出したといえる。このような状況下で令状提示を欠いたまま執行を継続したことは適法な公務の執行に該当し、これに対して暴行を加えた被告人の行為は公務執行妨害罪を構成する。
結論
被告人の暴行により令状提示が妨げられた本件執行は適法であり、公務執行妨害罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
令状提示(刑訴法222条1項、110条)の例外を認めた判例として重要である。実務上、被処分者側の妨害行為によって提示義務の履行が妨げられた場合の公務の適法性を肯定する根拠として機能する。答案では、原則として提示が必要であることを示しつつ、提示不能の責任が被処分者にあるという個別事情(帰責性)を指摘して適法性を導く際に用いる。
事件番号: 昭和27(あ)37 / 裁判年月日: 昭和28年6月19日 / 結論: 棄却
税務署員において捜索差押許可状をその処分を受ける者に対し呈示することが法の要請するところであるとしても、本件の如く相手方においてこれが呈示を要求した事実の認められないのは勿論、これを呈示することが事実上不可能であつたと認められる場合においては、たとい税務署員が許可状を呈示しなかつたとしても、唯だその一事により、その調査…