税務署員において捜索差押許可状をその処分を受ける者に対し呈示することが法の要請するところであるとしても、本件の如く相手方においてこれが呈示を要求した事実の認められないのは勿論、これを呈示することが事実上不可能であつたと認められる場合においては、たとい税務署員が許可状を呈示しなかつたとしても、唯だその一事により、その調査が公務の執行たることを妨げられるものではなく、暴行脅迫によつてこれを妨害した被告人等の所為が公務執行妨害罪を構成することは多言を要しない。
税務署員が被告人等の暴行脅迫により捜索差押許可状を呈示できなかつた場合と公務執行妨害罪の成立
刑訴法110条,国税犯則取締法2条,刑法95条
判旨
捜索差押許可状の呈示が法の要請であるとしても、相手方から呈示の要求がなく、かつ事実上呈示が不可能な状況下であれば、呈示を欠いても当該公務は適法な執行として公務執行妨害罪の客体となる。
問題の所在(論点)
刑法95条1項の「職務を執行するに当たり」といえるためには、当該職務が適法であることを要するが、捜索差押許可状を処分を受ける者に呈示しなかった場合、当該職務の適法性が否定されるか。
規範
捜索差押許可状の呈示が本来必要とされる場合であっても、①相手方において呈示を要求した事実が認められず、かつ、②状況に照らして呈示することが事実上不可能であったと認められる場合には、呈示を欠いたとしても、直ちに当該調査が公務の執行としての適法性を失うものではない。
重要事実
税務署員が濁酒密造事件の調査のため、適法な捜索差押許可状を携帯して臨場した。収税官吏Aは、証拠物件の投棄を恐れ緊急を要したため、許可状を所持する収税官吏Bより先に現場のC宅へ入った。続いて到着したBは、玄関にいた者らには許可状を示したが、処分を受けるべきCを捜索したものの、現場の混乱により発見できず、Cに対して許可状を呈示することができなかった。この際、被告人らは税務署員に対し暴行・脅迫を加えて調査を妨害した。
あてはめ
本件では、収税官吏が適法な許可状を現に携帯しており、一般的な調査権限を有していた。収税官吏Aが呈示せずに入ったのは証拠隠滅を防止するための緊急の必要性があったためであり、また収税官吏Bも処分対象者であるCを捜索したものの、現場の混乱という客観的な障害により発見に至らなかったものである。相手方から呈示の要求があった事実も認められない。したがって、呈示が事実上不可能であったといえる状況下では、呈示の欠如のみをもって公務の適法性が妨げられるとはいえない。
結論
許可状の呈示がなくても本件調査は適法な公務の執行にあたり、これに対して暴行・脅迫を加えた被告人らには公務執行妨害罪が成立する。
実務上の射程
手続的要件(呈示)に瑕疵がある場合の公務の適法性の判断枠組みとして活用できる。特に、証拠隠滅の阻止や現場の混乱といった「事実上の不能」がある場合に適法性が維持される限界を示す射程を持つ。ただし、現在の刑事訴訟法222条1項・110条の解釈においては、原則として呈示は必須であり、本判決は極めて例外的な状況における判断である点に留意が必要である。
事件番号: 昭和25(れ)1325 / 裁判年月日: 昭和27年3月28日 / 結論: 棄却
一 所得税に関する調査等をする職務を有する収税官吏が、所得税法第六三条により帳簿書類等の検査をするにあたつて、法定の検査章を携帯していなかつたとしても、納税義務者等において右検査章の不携帯を理由として右収税官吏の検査を拒んだような事実のない以上、これに対して暴行又は脅迫を加えたときは公務執行妨害罪を構成する。 二 収税…