司法巡査が覚せい剤取締法違反の現行犯人甲を逮捕する現場で証拠物として適法に差押え整理のため同所に置いた覚せい剤注射液入りアンプルを、被告人乙が足で踏付けて損壊したときは公務執行妨害罪が成立する。
公務執行妨害罪の成立する事例。
刑法95条1項
判旨
公務執行妨害罪(刑法95条1項)の「暴行」は、公務員の身体に対して直接加えられるものであることを要さず、職務の執行を妨害するに足りる不法な有形力の行使であれば足りる。証拠物の損壊といった間接的な行為であっても、それが公務員の職務執行に向けられたものであれば同罪の暴行に該当する。
問題の所在(論点)
刑法95条1項の「暴行」の意義、とりわけ公務員に対する直接的な身体接触がない場合(物に対する損壊行為等)であっても「暴行」に該当するか。
規範
公務執行妨害罪における「暴行」とは、公務員の職務の執行に当たり、その執行を妨害するに足りる不法な有形力の行使を指す。これは、必ずしも直接公務員の身体に加えられることを要せず、物に対する有形力の行使であっても、間接的に公務員に対して加えられたものと認められる場合には「暴行」に含まれる(いわゆる間接暴行)。
重要事実
司法巡査が覚せい剤取締法違反の現行犯人を逮捕する際、現場で証拠物として適法に差し押さえ、整理のために置いていた覚せい剤注射液入りアンプル30本を、被告人が足で踏みつけた。その結果、内21本を損壊させて司法巡査の公務の執行を妨害した。
あてはめ
被告人の行為は、公務員が適法に差し押さえ、管理下に置いていた証拠物(アンプル)を足で踏みつけて損壊させたものである。これは、公務員の身体に直接触れるものではないが、司法巡査の職務執行を物理的に妨害するに足りる不法な有形力の行使といえる。したがって、当該行為は間接的に司法巡査に対して加えられたものと評価でき、公務執行妨害罪の構成要件たる「暴行」に該当する。
結論
被告人の所為は公務執行妨害罪を構成する。被告人の上告を棄却し、同罪の成立を認めた原判決を正当とする。
実務上の射程
公務執行妨害罪における「暴行」の広延性を認める重要判例である。暴行罪(208条)とは異なり、公務という保護法益の観点から、対象が物であっても職務執行を妨害する性質があれば広く「暴行」に含める実務・判例の確立した態度(広義の暴行概念)を示すものである。
事件番号: 昭和25(れ)1718 / 裁判年月日: 昭和26年3月20日 / 結論: 棄却
公務員の職務の執行に当りその執行を妨害するに足る暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問うところではない。本件においては、原判示によれば、被告人はC事務官等が適法な令状後段説示により押収した煙草を街路上に投げすててその公務の執行を不能ならしめたというのであるから、その暴行は間接には…
事件番号: 昭和28(あ)2695 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」は、公務員に対し直接加えられるものであることを要せず、公務員に向けられた有形力の行使であれば間接的であっても同罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際し暴行を及ぼしたとして公務執行妨害罪等で起訴された。弁護人は、当該暴行が公務…