一 刑法第九五条の公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するにあたりこれに対して暴行または脅迫を加えたときは直ちに成立するものであつて、その暴行または脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りる。 二 職務執行中の警察官に対する投石行為は、たとえそれが只一回であつても、同条の暴行に該当する。
一 刑法第九五条の暴行、脅迫と結果発生の要否。 二 同条の暴行に該当する事例。
刑法95条
判旨
公務執行妨害罪における「暴行」は、職務の執行を妨害するに足りる性質のものであれば足り、現実に職務執行を妨害した結果が発生したことは必要ではない。したがって、警察官に対する1回限りの瞬間的な投石であっても、職務執行の妨害となるべき性質のものである限り、同罪が成立する。
問題の所在(論点)
刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」の意義。特に、1回限りの瞬間的な投石が、現実に職務を妨害していない場合でも同罪の「暴行」に該当するか。
規範
刑法95条1項の公務執行妨害罪は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行または脅迫を加えたときに直ちに成立する。ここにいう「暴行」とは、公務員の職務執行の妨害となるべき性質のものであれば足り、これによって現実に職務執行を妨害したという結果が発生したこと(具象的妨害)までは必要とされない(抽象的危険犯)。
重要事実
被告人ら3名は、集会後の無許可示威行進を警察部隊が実力行使により解散させていた際、検挙や警備に当たっていた警察官に対し、各1回ずつ投石した。投石は、1名の警察官については耳付近をかすめて命中せず、他の2名についてはそれぞれ鉄兜および臀部に命中した。原審は、これらはいずれも1回限りの瞬間的な暴行にすぎないとして、公務執行妨害罪の成立を否定し、単純暴行罪にとどまると判断した。
あてはめ
被告人らが行った投石行為は、たとえ1回限りの瞬間的なものであっても、殺気立った群衆の中で警備等の職務に従事する警察官に対してなされたものである。このような投石は、相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上明らかであり、「職務執行の妨害となるべき性質のもの」といえる。したがって、投石が命中したか否か、あるいは現実に職務執行が中断されたか否かにかかわらず、当該行為は同罪の構成要件たる暴行に該当する。
結論
被告人らの投石行為には公務執行妨害罪が成立する。1回限りの瞬間的な暴行であることを理由に同罪の成立を否定した原判決は、刑法95条の解釈を誤ったものであり、破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は、公務執行妨害罪が抽象的危険犯であることを明示している。答案作成上は、公務員の職務執行の適法性を確認した上で、行為が「妨害の抽象的危険性」を有する程度の不法な物理力行使(暴行)に当たるかを論じればよい。現実の妨害結果(職務の中断等)がない事案であっても、本判例を引用して同罪の成立を肯定する論理構成が可能となる。
事件番号: 昭和51(あ)310 / 裁判年月日: 昭和53年6月29日 / 結論: 破棄自判
一 刑法九五条一項にいう職務には、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれる。 二 刑法九五条一項における職務の執行中であるか否かの判断に際しては、日本電信電話公社の電報局長の、局の事務全般を掌理し部下職員を指揮監督する職務及び同電報局次長の、局長を助け局務を整理する職務は、その性質上、その内容及び執行の過…