某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一〇名の者が、同組合の右解雇通知に対する闘争態勢を強化し同会社をして右措置を撤回せしめようと企図して、同組合とかかわりなく同会社本社構内にほしいままに立入つた所為は、団体行動権の行使ということはできない。
団体行動権の行使と認められない一事例
憲法28条,労働組合法1条2項,労働関係調整法6条,労働関係調整法7条,刑法35条
判旨
労働組合等の正当な団体行動の範囲を逸脱し、会社側の承諾や組合の了解もなく実力で建物に立ち入る行為は、管理者の意思に反する不法な侵入として建造物侵入罪を構成する。
問題の所在(論点)
解雇の効力を争う目的で、会社の承諾や組合の了解を得ずに行われた実力による本社構内への立入りが、正当な理由のない「侵入」として建造物侵入罪を構成するか、また団体行動権の行使として正当化されるか。
規範
建造物侵入罪(刑法130条前段)における「侵入」とは、管理者の意思に反して立ち入ることをいう。労働争議に伴う立入りであっても、それが正当な団体行動権(憲法28条)の行使といえない場合には、管理者の承諾なき立入りとして違法性が阻害されず、同罪を構成する。
重要事実
被告人ら12名(うち9名は非従業員・非組合員)は、会社が従業員13名に対し解雇通知および立入禁止通告をしたことを不当とし、会社本社4階屋上を実力で占拠した。この際、被告人らは会社の承諾はもちろん、労働組合の了解も得ておらず、懸垂幕や花火・マッチを携行して本社構内に立ち入った。労働組合側は解雇の当否を調査し法的救済を協議中であり、被告人らの行動は組合の活動とは無関係に行われたものであった。
あてはめ
被告人らは、解雇通告を受けた者またはその知人であるが、会社管理にかかる本社構内に立ち入る際、会社の承諾を得ていない。また、当時労働組合は事後の対策を協議中であったにもかかわらず、組合と関わりなく、その了解も得ずに実力行使に及んでいる。このような行動は、正当な団体行動権の行使としての性質を欠くものであり、社会通念上「正当な理由」があるとは認められない。したがって、管理者の意に反する不法な侵入であると解される。
結論
解雇通知の有効性にかかわらず、被告人らの行為は建造物侵入罪を構成し、正当行為として是認される余地はない。
実務上の射程
労働争議に伴う建造物侵入の事案において、組合の決定を経ない個人的・過激な実力行使が「団体行動権の行使」の範囲を逸脱し、犯罪を構成することを明示した判例である。答案上は、憲法28条の正当な権利行使にあたるか否かの判断において、組合の了解や手続的適正の有無を考慮要素とする際に参照すべきである。
事件番号: 昭和39(あ)2588 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
D労働組合員約六〇名が、鉄道管理、局係員の制止無視して、午前八時過ぎごろ、管理局庁舎屋上に立入り、屋上から懸垂幕をたらしたり、鉄道旗を掲揚中の柱に組合旗を併わせて掲げたりしたうえ、同庁舎四階から屋上に通ずる出入口の戸を屋上の側から押えて閉鎖し、同管理局関係者の屋上への立入を阻止する態勢をととのえ、次いで同庁舎前に参集し…
事件番号: 昭和29(あ)2531 / 裁判年月日: 昭和32年2月5日 / 結論: 棄却
本件A労働者組合に属する日傭労働者が、B職業安定所長に対し、賃金増額並びに完全就労等の要求をして、面会を求めるような関係は、憲法第二八条の保障する権利の行使に該当しない。