本件A労働者組合に属する日傭労働者が、B職業安定所長に対し、賃金増額並びに完全就労等の要求をして、面会を求めるような関係は、憲法第二八条の保障する権利の行使に該当しない。
憲法第二八条の団体交渉にあたらない一事例
憲法28条
判旨
憲法28条の労働基本権は、使用者対被用者の関係に立つ者の間において経済的弱者である労働者を保護する趣旨であり、この関係にない者による行動には保障が及ばない。
問題の所在(論点)
使用者対被用者の関係にない公的機関(職業安定所)に対して行われた労働組合員の団体行動について、憲法28条に基づく正当な行為として違法性が阻却されるか。
規範
憲法28条は、企業者対勤労者、すなわち使用者対被用者という関係に立つ者の間において、経済上の弱者である勤労者のために団結権ないし団体行動権を保障したものである。したがって、労働者以外の団体または個人の単なる集合にすぎないものに対してまで同条の保障が及ぶものではない。
重要事実
労働組合に所属する日雇労働者である被告人らは、職業安定所長に対し賃金増額等を要求したが、代表者以外との面会を拒絶されたことに不満を抱いた。そこで、約150名と共同して職員に対し暴言を吐き、掲示物を毀棄し、退去要求に従わず建造物を不法に占拠した。さらに、被告人の一人は逮捕を免れるため巡査部長に暴行を加え、公務の執行を妨害したとして起訴された。
あてはめ
本件における被告人ら日雇労働者と職業安定所(およびその所長)との関係は、直接の使用者対被用者の関係にはない。憲法28条が保障する団体行動権は、あくまで労使関係を前提とした権利であるから、労使関係にない対象への暴言、建造物占拠、掲示物毀棄、警察官への暴行といった一連の行為は、同条の保障する団体交渉その他の団体行動権の行使には該当しない。したがって、これらの行為は正当な行為ということはできず、違法性は阻却されない。
結論
被告人らの行為は憲法28条の保障の範囲外であり、刑法上の各罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
労働基本権(憲法28条)の主体および保障の対象となる場面を画定する際、労使関係の存否を不可欠の前提とする判例である。答案上は、労働者性が問題となる事案や、第三者に対する団体行動の正当性を論じる際の否定的な規範として活用できる。
事件番号: 昭和38(あ)223 / 裁判年月日: 昭和39年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動権であっても、使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧するような行為は許容されない。労働組合法1条2項による刑罰阻却も正当な行為に限られ、暴行罪等に当たる行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として団体交渉等の団体行動を行った際、暴行罪や住…
事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…