顧客が証券会社の販売する仕組債を運用対象金融資産とする信託契約を含む一連の取引を行った場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記仕組債の仕組み全体が必ずしも単純なものではなく,上記取引の説明を受けた顧客の担当者が金融取引についての詳しい知識を有していなかったとしても,証券会社に説明義務違反があったということはできない。 (1) 証券会社は,顧客に対し,上記仕組債の基本的な仕組みに加え,上記取引には,上記仕組みにより最悪の場合には元本全部を毀損するリスクがあるほか,期日前に償還されるリスクもある旨を説明した。 (2) 顧客は,その発行株式を東京証券取引所市場第一部等に上場し,国際的な金融事業を行っており,上記取引について公認会計士及び弁護士に対し意見を求めてもいた。 (3) 証券会社による上記取引の説明の一部が顧客において上記取引の関係者との間で折衝に入るなどした後に行われたものの,その時点において上記取引の実施を延期し又は取りやめることが不可能又は著しく困難であったという事情はうかがわれない。
顧客が証券会社の販売する仕組債を運用対象金融資産とする信託契約を含む一連の取引を行った際に証券会社に説明義務違反があったとはいえないとされた事例
民法709条
判旨
金融商品の販売業者が顧客に対して負う説明義務の成否は、顧客の知識、経験、属性、及び勧誘の際の説明内容を総合して判断すべきであり、国際的な金融事業を行い公認会計士等の専門家の助言も受け得る上場企業に対して、元本欠損リスク等の核心的部分を適切に説明している場合には、詳細な計算方法等の提示時期や訳文の欠如があっても直ちに説明義務違反とはならない。
問題の所在(論点)
不法行為法上または契約上の付随義務としての説明義務に関し、高度な金融知識を有すると期待される上場企業に対し、リスクの核心を説明した一方で詳細資料の提示に遅滞や形式的不備があった場合に、説明義務違反が認められるか。
規範
金融機関の顧客に対する説明義務は、当該取引の仕組み及びリスクの内容が、顧客の属性(知識、経験、事業規模等)に照らして理解可能な程度に説明されたか否かによって判断される。特に、元本毀損のリスク及びその発生原因という核心的事項について、顧客が適切に理解し得る説明がなされていれば、細部の提示時期が遅れたことや、英文資料の訳文が未交付であること等の形式的な不備のみをもって直ちに説明義務違反(不法行為又は債務不履行)を構成するものではない。
重要事実
上場会社であり国際的金融事業も行う消費者金融業者Aは、自社発行社債の早期償還スキームとして、証券会社Y2から仕組債を用いた信託取引の提案を受けた。Y2はAに対し、本件仕組債にはインデックスCDSや担保債券(D債券)の評価下落により元本全額が毀損するリスクがある旨を口頭で説明した。Aは公認会計士等に意見を求めた上で契約を締結したが、後に市況悪化により元本の約99%を失う期日前償還となった。Aの管財人は、詳細な計算条件等の提示が契約直前であったことや、英文資料の訳文が交付されなかったことを理由に、Y1(組成者)及びY2の説明義務違反等を主張した。
あてはめ
本件では、Y2はAに対し、参照組織の信用力低下やD債券の評価下落により最悪の場合には元本300億円全額が毀損するリスクがある旨を明確に説明している。Aは東証一部上場企業であり国際的金融事業も展開している上、本件取引に際して専門家(公認会計士・弁護士)の助言を仰ぐ機会も有していた。このようなAの属性に照らせば、上記説明を理解することは困難ではない。また、詳細な契約条件(英文書面)の提示が契約直前であったとしても、Aにおいて取引の実施を延期・中止することが不可能であった事情は認められない。したがって、訳文の不交付等の事情を考慮しても、Aがリスクを理解する上での支障があったとはいえず、説明義務を尽くしたものと解される。
結論
上告人ら(Y1、Y2)に説明義務違反は認められず、損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
プロ投資家・大手企業(特定投資家相当)が関与する金融取引において、リスクの核心的事項(元本割れ可能性とその要因)が説明されている限り、説明のタイミングや資料の形式面(翻訳の有無等)に多少の不備があっても、義務違反は否定されやすいことを示している。答案上は、顧客の属性(「情報の非対称性」の程度)と説明内容の相関関係を論じる際の有力な依拠先となる。
事件番号: 平成20(受)1940 / 裁判年月日: 平成23年4月22日 / 結論: 破棄自判
契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償…