防火設備の一つとして重要な役割を果たし得る防火戸が室内に設置されたマンションの専有部分の販売に際し,防火戸の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所に設置され,それが切られた状態で専有部分の引渡しがされた場合において,宅地建物取引業者が,購入希望者に対する勧誘,説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務について売主から委託を受け,売主と一体となって同事務を行っていたこと,買主は,上記業者を信頼して売買契約を締結し,上記業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事情においては,上記業者には,買主に対し,防火戸の電源スイッチの位置,操作方法等について説明すべき信義則上の義務がある。
売主から委託を受けてマンションの専有部分の販売に関する一切の事務を行っていた宅地建物取引業者に専有部分内に設置された防火戸の操作方法等につき買主に対して説明すべき信義則上の義務があるとされた事例
民法1条2項,民法555条,民法643条,民法709条
判旨
売買契約において、売主と一体となって販売事務全般を行う宅地建物取引業者は、信義則上、売主の付随義務と同様に、防火戸の操作方法等の重要事項を説明すべき義務を負う。また、防火戸が作動しなかった場合の損害額の算定に際しては、作動した場合の想定被害との比較において、特段の事情がない限り損害は低額にとどまると推認すべきである。
問題の所在(論点)
1. 売主から販売事務を委託された宅地建物取引業者が、売主が負うべき契約上の付随義務(説明義務)と同様の義務を信義則上負うか。 2. 防火戸の不作動により拡大した損害の算定において、作動時と不作動時の損害額に差がないと判断することは経験則に反するか。
規範
1. 宅地建物取引業者が売主から委託を受け、売主と一体となって勧誘から引渡しまでの販売事務一切を行い、買主も当該業者の専門性等を信頼している場合には、当該業者は信義則上、売主が負う契約上の付随義務(重要設備の操作方法等の説明義務)と同様の義務を負い、これに違反した場合は不法行為責任を負う。 2. 損害の範囲については、防火設備が作動しなかったことにより拡大した損傷に関し、設備が正常に作動した場合に比して損傷範囲が狭く程度が軽くなることは明らかであるから、特段の事情がない限り、作動した場合の原状回復費用は不作動時より低額になると推認するのが経験則に合致する。
重要事実
売主Aから販売事務一式の委託を受けた宅地建物取引業者B(Aの子会社)は、マンションEX号室をDに販売した。室内には火災延焼を防ぐ防火戸があったが、その電源スイッチは一見して不明な制御器内にあり、BはDに対しスイッチの位置や操作方法を一切説明しなかった。その後、Dの失火により火災が発生したが、スイッチが切られていたため防火戸が作動せず、南側区画へ延焼が拡大し、Dは焼死した。遺族である原告が、Bの説明義務違反等を理由に損害賠償を求めた事案である。
あてはめ
1. BはAの全額出資子会社であり、Aに代わり勧誘から引渡しまで販売事務一切を行っていた。買主DもBの専門性を信頼して契約したといえる。防火戸は火災時の安全確保に極めて重要な設備であり、スイッチが分かりにくい場所にある以上、BはAと同様に説明義務を負うべきであり、これを怠ったBには不法行為が成立し得る。 2. 防火戸が作動すれば延焼範囲が狭まり程度も軽くなるのは明らかである。消火活動により煙や水が流入する可能性(原審認定)は、直ちに「作動しても損害額が変わらない」とする特段の事情には当たらず、経験則に照らせば作動時の方が低額になると推認すべきである。
結論
1. 宅地建物取引業者Bは信義則上の説明義務を負い、その違反により不法行為責任を負い得る。 2. 防火戸が作動した場合の損害額が不作動時と同等であるとした原審の判断は、経験則に反し違法である。原判決破棄・差し戻し。
実務上の射程
契約当事者ではない媒介業者や販売代理業者に対し、売主と同等の付随義務(説明義務)を認める際のメルクマール(売主との一体性、事務の範囲、買主の信頼)を提示した。また、不法行為や瑕疵担保における「相当因果関係のある損害」の立証・認定において、設備が正常に作動した事実を前提とする仮定的な損害額との比較(差額説的アプローチ)を要求する実務指針となる。
事件番号: 昭和62(オ)1408 / 裁判年月日: 平成3年10月17日 / 結論: 棄却
木造二階建ての建物の一部を衣料品類販売店舗として賃貸し、建物の火気は主として賃貸人が住居として使用していたその余の部分にあり、賃貸人の使用部分からの失火によって賃貸部分に蔵置保管されていた衣料品類にも被害が及ぶことが当然に予測されていたなど、判示の事実関係の下において、賃貸人は、その使用部分の火気の取扱いの不注意による…