契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。 (補足意見がある。)
契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合の債務不履行責任の有無
民法1条2項,民法415条
判旨
契約締結に先立ち信義則上の説明義務に違反したことにより、相手方が本来締結しなかったはずの契約を締結して損害を被った場合、その賠償責任は不法行為によるものであり、契約上の債務不履行責任を負うことはない。
問題の所在(論点)
契約締結前の準備段階における信義則上の説明義務違反が、その後に締結された契約に基づく「債務不履行」を構成するか。特に、契約上の付随義務違反として債務不履行責任の消滅時効(10年)が適用されるか、不法行為責任(3年)に限定されるかが争点となった。
規範
契約の一方当事者が、締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して判断に影響を及ぼすべき情報を提供しなかった場合、不法行為による賠償責任を負うことはあっても、当該契約上の債務不履行による賠償責任を負うことはない。なぜなら、当該義務違反により締結された契約は義務違反の結果にすぎず、その契約自体から生じた義務(本来的な債務や付随義務)と解することは論理的に背理だからである。
重要事実
信用協同組合である上告人は、実質的な債務超過の状態にあり経営破綻の現実的危険があった。しかし、代表理事らはこの事実を認識し得たにもかかわらず、被上告人らに対し説明しないまま出資を勧誘した。被上告人らはこれに応じ出資契約を締結したが、その後上告人が経営破綻したため持分の払戻しが不能となった。被上告人らは、信義則上の説明義務違反を理由として、不法行為責任(時効消滅済み)に代えて債務不履行に基づく損害賠償を請求した。
あてはめ
本件の説明義務は、被上告人らが出資契約を締結するか否かを判断するための情報提供であり、契約締結前の段階で生じたものである。契約準備段階で信義則が適用されるとしても、その義務は契約交渉に入ったこと自体を根拠とするものであり、その後に締結された出資契約そのものから発生する義務ではない。したがって、本件説明義務違反は契約上の付随義務違反には当たらず、契約上の債務不履行責任を構成する余地はない。よって、本件請求は不法行為責任としてのみ構成し得るところ、既に時効期間を経過しているため認められない。
結論
本件説明義務違反は債務不履行を構成しない。したがって、債務不履行に基づく損害賠償請求は棄却される。
実務上の射程
契約締結上の過失(説明義務違反)の法的性質が「不法行為」であることを明示した。答案上では、契約準備段階の義務違反を債務不履行として構成することを否定し、消滅時効等の文脈で責任の性質を峻別する際の根拠として用いる。ただし、千葉裁判官の補足意見によれば、商品の使用方法の誤教示など「契約の内容に密接に関わる付随義務」については、契約上の義務として取り込める余地を認めており、事案に応じた使い分けが必要である。
事件番号: 平成16(受)1847 / 裁判年月日: 平成17年9月16日 / 結論: 破棄差戻
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