金融機関の従業員が,顧客に対し,融資を受けて宅地を購入するように積極的に勧誘し,その結果として,顧客が接道要件を具備していない宅地を購入するに至ったとしても,当該従業員において当該宅地が接道要件を具備していないことを認識していながらこれを当該顧客に殊更に知らせなかったことなど,信義則上,当該従業員の当該顧客に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情をうかがうことができないなど判示の事情の下においては,当該従業員が上記接道要件を具備していないことを説明しなかったことが当該宅地を購入した顧客に対する不法行為を構成するということはできない。
金融機関の従業員が顧客に対し融資を受けて宅地を購入するように勧誘する際に当該宅地が接道要件を具備していないことを説明しなかったことが当該宅地を購入した顧客に対する不法行為を構成するとはいえないとされた事例
民法709条,宅地建物取引業法35条1項
判旨
融資担当の銀行員が土地購入を勧誘した際、当該土地の接道要件の欠如を説明しなかったとしても、特段の事情がない限り、信義則上の説明義務違反(不法行為)は成立しない。
問題の所在(論点)
融資契約の成立を目的として土地の購入を勧誘した銀行員に、当該土地の建築基準法上の接道要件に関する信義則上の説明義務が認められるか。
規範
銀行員が融資に際して土地の購入を勧誘した場合であっても、以下の「特段の事情」がない限り、信義則上の説明義務違反を構成しない。(1)接道要件の具備について認識しながら殊更に告げなかった、又は怠った場合、(2)銀行が売主側と業務提携し、従業員が販売活動に深く関与していた場合など。また、接道要件は宅地建物取引業法上の重要事項であり、特段の事情がない限り、専ら仲介業者が説明義務を負う。
重要事実
銀行員甲は、被上告人に対し、同行から融資を受けて土地を購入するよう積極的に勧誘した。被上告人は融資を受けて本件土地を購入したが、本件土地は道路位置指定がされておらず、建築基準法上の接道要件を満たしていなかった。甲はこれを知らされておらず、説明もしなかった。後に被上告人が建築を試みた際、建築確認が受けられず損害を被ったとして、銀行に対し甲の説明義務違反に基づく使用者責任(民法715条)を追及した。
あてはめ
本件では、(1)甲が接道要件の欠如を認識しながら殊更に秘匿したなどの事情はなく、(2)銀行側が売主の販売活動に深く関わっていた事情も認められない。また、本件売買当時は売主による道路位置指定への協力が期待でき、法的支障が生じる可能性は乏しかった。さらに、接道要件は宅建業法35条1項に基づき仲介業者が説明義務を負う事項であり、融資担当者にすぎない甲に同様の義務があるとはいえない。したがって、特段の事情は認められない。
結論
銀行員の行為は不法行為を構成せず、銀行は損害賠償義務を負わない。
実務上の射程
付随的義務としての説明義務の範囲を限定する射程を持つ。銀行などの融資機関は、融資対象物件の法的瑕疵について当然に調査・説明する義務を負うわけではなく、仲介業者との役割分担を重視する実務判断の指針となる。答案上は、不法行為の過失(義務違反)の有無を判断する際、本判決の「特段の事情」を考慮要素として引用すべきである。
事件番号: 昭和49(オ)598 / 裁判年月日: 昭和52年3月31日 / 結論: 破棄差戻
履行不能における債務者の責に帰すべからざる事由とは、債務者に故意・過失がないか、又は債務者に債務不履行の責任を負わせることが信義則上酷に失すると認められるような事由をいう。