履行不能における債務者の責に帰すべからざる事由とは、債務者に故意・過失がないか、又は債務者に債務不履行の責任を負わせることが信義則上酷に失すると認められるような事由をいう。
履行不能における債務者の責に帰すべからざる事由の意義
民法1条2項,民法415条
判旨
債務不履行(履行不能)における「責めに帰すべき事由」がないとは、債務者に故意・過失がないか、または責任を負わせることが信義則上酷に失する場合をいう。賃貸人の地位を承継した者が、前主からの建物収去訴訟等の存在を知らずに取得したとしても、それのみでは直ちに帰責事由が否定されるものではない。
問題の所在(論点)
賃貸人の地位を承継した者が、承継前に発生していた履行不能の要因(建物収去訴訟)について、過失なく知らずに取得し、かつ承継後に真摯な法廷闘争を行った場合、民法415条(履行不能)の帰責事由が否定されるか。
規範
債務不履行に基づく損害賠償責任において、債務者が免責されるためには、履行不能が「自己の責に帰すべからざる事由」によって生じたことを証明しなければならない。ここにいう「責に帰すべからざる事由」がある場合とは、①債務者に故意・過失がない場合、または②債務者に債務不履行の責任を負わせることが信義則上酷に失すると認められる特段の事情がある場合を指す。
重要事実
上告人(賃借人)は、D商事から建物(本件賃借部分)を借りていたが、被上告人(賃貸人)がD商事から本件建物を譲り受け、賃貸人の地位を承継した。しかし、本件建物は、譲渡前から土地所有者Eによって建物収去土地明渡しを求める訴訟が提起されており、被上告人はその訴訟を引き継いだが敗訴が確定した。結果、上告人はEからの強制執行により本件賃借部分から退去を余儀なくされた。被上告人は、建物を譲り受けた際、訴訟係属の事実を知らず借地権があるものと信じており、上告人の退去を回避するため弁護士費用を負担して争うなど、可能な努力は尽くしたと主張した。
あてはめ
本件において、上告人が使用収益できなくなった原因は、被上告人が土地所有者から建物収去を命じられたことにある。被上告人は、本件建物を取得する際、既に係属していた収去訴訟の事実を確認せず、借地権の有無を十分に調査しなかった可能性がある。このような状況下では、被上告人に「過失」があるといえる余地が十分にある。また、被上告人が譲受後に弁護士を立てて係争したという事実があるにせよ、瑕疵ある地位を承継した以上、それだけで責任を負わせることが「信義則上酷に失する」とまで断じることはできない。したがって、帰責事由を否定した原判決の判断は失当である。
結論
被上告人に過失がない、あるいは信義則上責任を問うのが酷であるとは認められないため、被上告人の帰責事由を認め、履行不能による損害賠償責任を負わせるべきである。
実務上の射程
債務不履行の帰責事由における「信義則」の機能を認めた重要判例。答案上では、過失の有無を検討した上で、過失が認められる場合であっても、なお信義則による免責の余地があるという二段構えの規範として利用できる。特に賃貸借のように前主の瑕疵を引き継ぐ地位の承継において、承継人自身の主観や努力をどう評価するかの指標となる。
事件番号: 昭和39(オ)272 / 裁判年月日: 昭和40年5月18日 / 結論: 棄却
不法行為の損害賠償の算定に際して、被害者の過失を斟酌すると否とは、裁判所の自由裁量に属する。