一 家屋賃借人の妻の失火により、右家屋が滅失したときは、賃借人たる夫の責に帰すべき事由により賃借物の返還義務が履行不能になつたものと認めるべきである。 二 債務者の責に帰すべき事由によつて履行不能を生じたときは、賃借人は、契約を解除することなくして填補賠償の請求をすることができる。
一 債務者の妻の過失と夫の債務不履行上の責任 二 債務者の責に帰すべき事由により履行不能を原因とする損害賠償の請求と契約解除の要否
民法415条,民法543条
判旨
賃借人の履行補助者の過失により賃借物が滅失した場合、賃借人自身の責めに帰すべき事由があるものとして、賃借人は債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
賃借人の同居の親族(妻)が失火させた場合、賃借人自身の「責めに帰すべき事由」(民法415条)が認められるか。また、履行不能による損害賠償請求に解除の手続きは必要か。
規範
民法415条にいう「債務者の責めに帰すべき事由」には、債務者本人の故意・過失のみならず、履行補助者の故意・過失も含まれる。また、債務者の責めに帰すべき事由により履行不能が生じた場合、債権者の請求権は、契約の解除を待たずして当然に損害賠償請求権(填補賠償請求権)へと変ずる。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃借人(上告人)に対し家屋を賃貸していたが、上告人の妻(D)の過失により当該家屋が全焼し滅失した。被上告人は、賃借物の返還義務が履行不能になったとして、上告人に対し債務不履行に基づく損害賠償を請求した。上告人は、過失があったのは妻であり、自己に帰責事由はないと主張して争った。
あてはめ
本件において、妻Dは賃借人ではないため直接の賃貸借上の義務は負わないが、賃借人である上告人の義務の履行を補助する関係にある「履行補助者」にあたる。したがって、履行補助者であるDの過失は債務者である上告人の帰責事由と同視される。その結果、上告人の責めに帰すべき事由により賃借物返還義務が履行不能になったといえる。この場合、解除の手続きを経ずとも、返還請求権は填補賠償請求権へと変ずるため、上告人は賠償義務を免れない。
結論
上告人の責めに帰すべき事由による履行不能が認められるため、上告人は被上告人に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。上告棄却。
実務上の射程
履行補助者の過失を債務者の帰責事由とする法理を明示した重要判例である。答案上では、信義則を根拠に履行補助者の概念を提示し、家族や従業員等の事実上の協力者をこれに含めて、415条の帰責事由を認める際の見本となる。また、履行不能における填補賠償が解除不要で発生する点も、損害賠償の発生時期の論理として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)790 / 裁判年月日: 昭和30年3月25日 / 結論: 棄却
債務不履行による損害賠償については「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用はない。
事件番号: 昭和41(オ)64 / 裁判年月日: 昭和41年6月3日 / 結論: 棄却
ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去二年間に三回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約三〇糎の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後七時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなか…