債務不履行による損害賠償については「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用はない。
債務不履行による損害賠償と「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用の有無
民法415条,失火ノ責任ニ関スル法律(明治32年法律40号)
判旨
賃借人の失火により賃借物が滅失した場合の損害賠償責任において、失火責任法は適用されず、賃借人は重過失がない場合であっても債務不履行に基づく賠償責任を免れない。
問題の所在(論点)
失火により賃貸借目的物が滅失した場合の損害賠償請求(債務不履行責任)について、失火責任法が適用されるか(重過失が必要か)。
規範
失火責任法は、民法709条の規定を失火の場合に適用しないことを定めたものである。したがって、契約上の義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求については、同法の適用はなく、軽過失による火災であっても賠償責任を負う。
重要事実
賃借人である上告人Aが、賃借していた工場を火災により滅失させた。これに対し、賃貸人が債務不履行(目的物返還義務の履行不能)に基づき損害賠償を請求したところ、上告人側は、失火責任法が適用される結果、重過失がない限り責任を負わない旨を主張して争った。
あてはめ
本件は、不法行為(民法709条)に基づく賠償請求ではなく、賃貸借契約上の義務違反を理由とする債務不履行に基づく賠償請求である。失火責任法の文言上、適用除外となるのは「民法709条」の規定に限定されている。したがって、賃借人の責に帰すべき事由(過失)によって火災が発生し、目的物が滅失した以上、失火責任法の成否にかかわらず債務不履行責任が成立する。
結論
本件債務不履行による損害賠償請求に失火責任法は適用されないため、賃借人は重過失の有無を問わず、滅失による損害を賠償すべきである。
実務上の射程
賃貸借契約における賃借人の目的物返還義務について、失火責任法の適用を否定する確立した判例である。不法行為(対隣人等)と債務不履行(対賃貸人)を峻別する基礎知識として重要であり、答案上は失火を伴う履行不能の局面で簡潔に引用すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)64 / 裁判年月日: 昭和41年6月3日 / 結論: 棄却
ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去二年間に三回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約三〇糎の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後七時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなか…