ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去二年間に三回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約三〇糎の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後七時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなかつた等原判決(引用の一審判決)判示の事情のもとにおいては、右ストーブよりの失火は、重大な過失によるものと認めるのが相当である。
失火者に重大な過失があつたものと認められた事例
民法709条,失火の責任に関する法律
判旨
借家人が重大な過失によって借家を焼失させた場合、失火ノ責任ニ関スル法律の規定にかかわらず、賃貸人に対する債務不履行(保管義務違反)に基づく損害賠償責任を免れない。
問題の所在(論点)
建物の賃借人が火災により賃借物を焼失させた場合において、失火法との関係でどのような要件のもとで損害賠償責任(債務不履行責任)を負うか。また、その際の「重大な過失」の認定および損害額の算定の妥当性。
規範
失火ノ責任ニ関スル法律(失火法)は、民法709条の適用を「重大ナル過失」がある場合に限定するものであるが、契約上の債務不履行責任(民法415条)には適用されない。もっとも、借主の損害賠償責任の有無を判断するにあたっては、失火法の趣旨を考慮し、その過失が「重大な過失」に該当するか否かが検討される。
重要事実
上告人(借家人)が、本件建物を占有・使用していたところ、火災が発生し建物が焼失した。原審は、当該焼失が上告人の「重大な過失」に基づくものであると認定した。また、損害額の算定において、当時の時価を少なくとも1坪当たり1万円であると評価した。上告人はこれら事実認定および判断に不服を申し立てて上告した。
あてはめ
本件において、原審が確定した事実関係によれば、建物の焼失は上告人自身の「重大な過失」に基づくものであったと認められる。この認定は適法な証拠関係に照らして是認できるものである。また、損害額についても、原審は必ずしも断定的な総額を用いたわけではなく、最低限の価値(1坪あたり1万円)を基準として算定しており、その証拠取捨および事実認定に不合理な点は認められない。
結論
建物の焼失が賃借人の重大な過失に基づくものである以上、賃貸人に対する損害賠償責任を免れない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
賃貸借契約における保管義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求において、失火が原因である場合には失火法の準用または類推により「重過失」が必要とされる実務上の運用を前提としている。本判決は、事実認定の適法性を維持し、重過失がある場合の賠償責任を肯定するものである。
事件番号: 昭和27(オ)884 / 裁判年月日: 昭和32年7月9日 / 結論: 棄却
一 明治三二年法律第四〇号「失火ノ責任ニ関スル法律」但書の規定する「重大ナル過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである。 二 …