一 明治三二年法律第四〇号「失火ノ責任ニ関スル法律」但書の規定する「重大ナル過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである。 二 原審認定にかかる事情(原判決参照)の下においては、被上告人にその注意義務を怠つた過失はあるがその程度が右にいう重大な過失に達するものではなかつたと判断するのが相当である。
一 「失火ノ責任ニ関スル法律」但書にいわゆる「重大ナル過失」の意義 二 失火者に「重大ナル過失」の認められなかつた一事例
失火ノ責任ニ関スル法律(明治32年法律40号)
判旨
失火の責任に関する法律(失火責任法)にいう「重大ナル過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をせず、わずかの注意さえすればたやすく結果を予見できたのに漫然とこれを見過ごした、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいう。
問題の所在(論点)
失火責任法但書の「重大ナル過失」の意義、および同法適用下における立証責任の所在が問題となった。
規範
失火責任法が適用される場合、失火者は「重大ナル過失」があるときに限り不法行為責任を負う。ここにいう「重大な過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す。
重要事実
上告人(家屋所有者)は、被上告人Bが焚火から失火させたことにより本件家屋が焼失したとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた。原審は、出火当時の気象状況、Bによる焚火場所の選定、およびその際の監視状況等の諸事情を検討し、Bに過失は認められるものの、重大な過失にまでは達しないと判断した。
あてはめ
まず、失火責任法の趣旨は失火者の責任を軽減する点にあるため、損害賠償を請求する側が、失火者に「重大な過失」があったことを立証しなければならない。本件では、Bの焚火場所の選定や監視状況等の具体的事情に照らし、注意義務違反(過失)は認められる。しかし、それが「わずかな注意さえすれば容易に火災を予見できたのに漫然と見過ごした」という著しい注意欠如の状態、すなわち重過失にまで至るとは断定できない。したがって、重過失の存在を前提とする賠償請求は認められない。
結論
被上告人Bに重大な過失があったとは認められない。よって、失火責任法に基づき、Bは不法行為上の損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
失火責任法における「重過失」の定義を明示したリーディングケースである。答案上では、民法709条の特別法として本法を指摘した上で、本規範を定立し、事案における気象条件(強風等)や火気使用の態様(場所・消火準備の有無等)を具体的に拾ってあてはめる際に用いる。
事件番号: 昭和41(オ)64 / 裁判年月日: 昭和41年6月3日 / 結論: 棄却
ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去二年間に三回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約三〇糎の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後七時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなか…