失火の責任に関する法律は、被害者のなんらかの既得の損害賠償請求権を侵害するものではないから、これを侵害することを前提として憲法二九条違反をいうのは前提を欠く。
失火の責任に関する法律と憲法二九条
失火の責任に関する法律,憲法29条
判旨
失火ノ責任ニ関スル法律は、被害者の損害賠償請求権を侵害するものではなく、憲法に違反しない。民法709条と相まって、失火の場合には故意または重過失があるときに限って責任を負わせるという請求権の発生要件を定めたものにすぎないからである。
問題の所在(論点)
失火法が、失火者の責任を故意または重過失がある場合に限定し、軽過失による失火の被害者が損害賠償請求権を取得できないようにしていることが、被害者の権利を侵害し憲法に違反するか。
規範
不法行為によって権利を侵害された被害者は、法の定めるところに従って初めて損害賠償請求権を取得する。失火ノ責任ニ関スル法律(失火法)は、民法709条の特別法として、失火による権利侵害の場合には失火者に故意または重大な過失があるときに限って不法行為責任を負わせるという、損害賠償請求権の発生要件を定めているものである。
重要事実
上告人(被害者)は、失火により権利を侵害されたとして損害賠償を請求したが、失火法が適用される結果、相手方に重過失がない限り賠償を受けられないこととなる。これに対し上告人は、失火法が損害賠償請求権という既得の権利を不当に侵害するものであり、憲法に違反すると主張して争った。
あてはめ
不法行為に基づく損害賠償請求権は、法律の規定(民法709条等)を満たすことで初めて発生する権利である。失火法は、日本の家屋構造等の特殊事情に鑑み、失火者の責任を合理的な範囲に制限するため、その発生要件を「故意または重大な過失」に限定したものである。したがって、当初から要件を満たさない場合に請求権が発生しないことは、被害者の「既得の損害賠償請求権」を侵害したことにはならない。
結論
失火法は憲法に違反しない。したがって、重過失が認められない限り、失火法に基づき損害賠償請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
本判決は失火法の合憲性を明示したものである。司法試験においては、失火を伴う不法行為の問題で民法709条を検討する際、必ず失火法の適用を検討し、重過失の有無を認定する枠組みとして本法の趣旨を理解しておく必要がある。また、立法政策による賠償制限が憲法上の財産権等の侵害に当たらないとする論理構成としても参照し得る。
事件番号: 昭和27(オ)884 / 裁判年月日: 昭和32年7月9日 / 結論: 棄却
一 明治三二年法律第四〇号「失火ノ責任ニ関スル法律」但書の規定する「重大ナル過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである。 二 …
事件番号: 昭和41(オ)64 / 裁判年月日: 昭和41年6月3日 / 結論: 棄却
ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去二年間に三回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約三〇糎の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後七時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなか…