被用者が重大な過失によつて火を失したときは、使用者は、被用者の選任または監督について重大な過失がなくても、民法第七一五条第一項によつて賠償責任を負う。
「失火ノ責任ニ関スル法律」と民法第七一五条
失火ノ責任ニ関スル法律,民法715条
判旨
失火責任法が適用される場合であっても、使用者の民法715条に基づく損害賠償責任については、被用者に重過失があれば足り、使用者自身の選任監督上の過失は重過失であることを要しない。
問題の所在(論点)
失火責任法が適用される事案において、民法715条に基づく使用者責任を認めるためには、使用者自身の選任監督上の過失についても「重大な過失」が必要か。
規範
失火責任法は失火者本人の責任条件を規定したものであり、その使用者(民法715条)の帰責条件を規定したものではない。したがって、被用者に重大な過失が認められる場合には、使用者は選任監督について通常の過失(不注意)があれば賠償責任を負い、使用者自身の重過失までは不要である。
重要事実
本件では、被用者の失火によって損害が発生した。上告人(使用者)は、失火責任法の趣旨に鑑み、使用者責任を問うためには使用者自身にも選任監督上の「重大な過失」が必要であると主張して争った。
あてはめ
失火責任法の規定は失火者個人の責任を軽減するものであり、使用者の責任まで一律に軽減するものではない。被用者に重過失がある以上、不法行為責任の基礎は形成されている。このとき、使用者が免責されるためには、選任監督において相当の注意をしたことを立証する必要があるが、その注意義務の基準を重過失に限定する法的根拠はない。本件においても、使用者に選任監督上の不注意が認められる限り、民法715条が適用されると解される。
結論
使用者は、選任監督について通常の過失があれば責任を負い、重過失は不要である。上告を棄却する。
実務上の射程
失火責任法と民法715条の関係を明確にした重要な判例である。答案作成上は、①被用者に重過失があること、②使用者に選任監督上の過失(通常過失)があること、の二段階で検討する際に、本判例を根拠として使用者自身の重過失が不要であることを明示すべきである。
事件番号: 昭和27(オ)884 / 裁判年月日: 昭和32年7月9日 / 結論: 棄却
一 明治三二年法律第四〇号「失火ノ責任ニ関スル法律」但書の規定する「重大ナル過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである。 二 …