木造二階建ての建物の一部を衣料品類販売店舗として賃貸し、建物の火気は主として賃貸人が住居として使用していたその余の部分にあり、賃貸人の使用部分からの失火によって賃貸部分に蔵置保管されていた衣料品類にも被害が及ぶことが当然に予測されていたなど、判示の事実関係の下において、賃貸人は、その使用部分の火気の取扱いの不注意による失火により賃貸部分に蔵置保管されていた衣料品類を焼失させたときは、衣料品類の損害について信義則上債務不履行による賠償義務を負担する。
建物賃貸人の失火による火災で焼失した賃貸建物内の衣料品類の損害について賃貸人の債務不履行責任を認めた事例
民法1条2項,民法415条,民法601条
判旨
建物の賃貸人は、賃借人に対し、信義則上の義務として、自らの失火によって賃借人の動産を焼失させないよう配慮すべき義務を負う。本件では、賃貸人の火気管理上の過失により賃借人の商品が焼失したため、債務不履行に基づく損害賠償責任が認められた。
問題の所在(論点)
賃貸人が自らの使用部分での失火により、賃借人の賃借部分にある動産を焼失させた場合、賃貸人は賃借人に対し、賃貸借契約上の義務(信義則上の付随的義務)違反として債務不履行による損害賠償責任を負うか。
規範
賃貸借契約の当事者は、その契約関係の性質に鑑み、信義則上、相手方の生命、身体、財産を侵害しないよう配慮すべき付随的義務を負う。特に、建物の一部を賃貸し、残部を自ら使用する賃貸人は、自らの火気使用不注意によって賃借人の動産を焼失させないよう配慮すべき義務を負い、これに違反した場合は債務不履行責任を免れない。
重要事実
上告人(賃貸人)は、所有する木造2階建建物の一部を、総合衣料品販売店舗として被上告人(賃借人)に賃貸した。上告人は、建物の残りの部分を自ら住居として使用しており、建物の火気は主に上告人の使用部分にあった。ある日、上告人が使用する1階風呂場での火気取扱いの不注意により失火が発生した。この火災により、被上告人の賃借部分に保管されていた衣料品類が焼失し、被上告人は損害を被った。
事件番号: 昭和41(オ)64 / 裁判年月日: 昭和41年6月3日 / 結論: 棄却
ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去二年間に三回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約三〇糎の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後七時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなか…
あてはめ
本件建物において、火気は主として賃貸人である上告人の使用部分に存在していた。上告人が火気の取扱いを不注意にすれば、隣接する被上告人の賃借部分にある衣料品に被害が及ぶことは当然に予測できたといえる。それにもかかわらず、上告人は風呂場での火気取扱いに不注意があり失火を招いたのであるから、信義則上の配慮義務に違反したと解される。したがって、これにより生じた衣料品の焼失という被害について、上告人の債務不履行が成立する。
結論
上告人は、本件失火による被上告人の損害について、賃貸人として信義則上の債務不履行による損害賠償義務を負う。
実務上の射程
賃貸人の保護義務・安全配慮義務を肯定した重要な事案である。失火責任法(重過失を要する)との関係では、契約関係にある当事者間においては、軽過失であっても債務不履行責任を追及できることを前提としている。答案上は、契約に基づく付随的義務(安全配慮義務)の具体的構成として活用すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)848 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
一 家屋賃借人の妻の失火により、右家屋が滅失したときは、賃借人たる夫の責に帰すべき事由により賃借物の返還義務が履行不能になつたものと認めるべきである。 二 債務者の責に帰すべき事由によつて履行不能を生じたときは、賃借人は、契約を解除することなくして填補賠償の請求をすることができる。