仮処分申請が被保全権利を欠くために違法であり、かつ、申請人に過失が認められるときは、右仮処分の執行は相手方に対する不法行為となる。
仮処分の執行が違法として損害賠償義務が認められた事例
民訴法760条,民法709条
判旨
保全処分の執行が被保全権利を欠くために違法とされた場合、申請人に過失が認められる限り、相手方に対しその執行によって生じた損害の賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
被保全権利を欠く保全処分の申請・執行がなされた場合において、申請人が不法行為責任(民法709条)を負うための要件、特に過失の判断基準が問題となる。
規範
保全処分の執行が被保全権利の不存在により違法とされる場合、申請人が当該処分の申請につき無過失であることを立証できない限り、民法709条に基づき、相手方が被った損害を賠償する責任を負う。本件のような法的性質の誤認については、正当な権利関係を知り、または知り得べき事情があったか否かにより過失の有無を判断する。
重要事実
上告人(土地所有者)は、被上告人が有する本件土地の使用権が法定地上権であることを認識し、または認識し得る状況にあった。法定地上権の消滅には、2年以上の地代不払等の要件(民法266条1項、276条)が必要であるが、上告人は当該要件を満たしていないにもかかわらず、賃料不払を理由とする賃貸借契約解除が有効であると誤信し、本件仮処分の申請を行った。
あてはめ
上告人は、被上告人の権利が法定地上権であることを知り得たのであるから、その消滅には単なる賃料不払だけでなく2年以上の延滞が必要であることを確認すべきであった。それにもかかわらず、要件を欠いたまま賃貸借契約解除の有効性を前提に仮処分を申請した点には過失が認められる。また、後の合意においても損害賠償請求権を放棄したとは認められないため、違法な執行による損害について賠償責任を免れない。
結論
本件仮処分の申請は被保全権利を欠く違法なものであり、かつ申請人に過失が認められるため、上告人は執行による損害の賠償責任を負う。
実務上の射程
保全処分の不当執行に基づく損害賠償請求における過失の推定(事実上の推定)を前提とした実務運用を支える判例である。答案上は、保全取消し後の損害賠償を論じる際、権利不存在の事実に加え、申請時の注意義務違反(権利関係の調査不尽等)を具体的事実から指摘する際の規範として用いる。
事件番号: 平成1(オ)1546 / 裁判年月日: 平成2年1月22日 / 結論: 破棄差戻
仮処分命令の本案において、仮処分申請における原告の主張が採用されず原告敗訴の判決が確定した場合においても、請求の当否が遺言の趣旨の解釈にかかるものであり、原告が右遺言の趣旨を遺産分割方法の指定と解したことが首肯し得るものであった等判示の事実関係の下においては、直ちに仮処分申請人に過失があったものとすることはできない。