甲に対してパチンコ遊技場の経営権を譲渡しこれとの間で自己名義では同一町内でパチンコ営業をしない旨の競業禁止契約を締結した乙が、右契約に前後してかねて親交のあつた丙を勧誘してパチンコ営業をすることを決意させ、同一町内で土地建物を買い受け旧建物を解体して店舗用建物を建築し風俗営業の許可申請を警察に提出するなどの開業準備をさせたが、丙は右町内に住んだことやパチンコ営業をした経験がないため右開業準備もほとんど乙が丙から任されてしたもので、乙は、丙の氏名を表面に出さないで建物の建築請負契約を締結し、みずからパチンコ機械の注文をし、風俗営業の許可申請にも管理者として名を連ね、将来は責任者としてパチンコ営業をする予定になつており、また、丙は、甲と乙との間で建物建築に関して紛争が生じ、警察において事情聴取や話合いの機会がもたれた際も表だつた行動には出なかつたなどの判示の事情があるときには、甲が乙及び丙の両名を相手方として申請し発令を受けた右建物におけるパチンコ営業禁止の仮処分命令が、いわゆる債権侵害を理由にしては第三者たる丙のパチンコ営業を禁止することは許されないとして丙に関する部分が取り消されて確定したとしても、丙名義のパチンコ営業が実際には甲の乙に対する競業禁止契約に基づく権利の侵害行為にはあたらないもので甲において右事実を容易に知ることのできる事情があつたとか、又は、右の侵害行為がある場合に甲が第三者たる丙に対して営業禁止を請求する権利があると考えたことが実体法の解釈として不合理なものであるといえない限り、甲が丙を相手方としてパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したことには過失の推定を覆えすに足りる特段の事情がないとはいえない。 (意見がある。)
競業禁止契約の当事者でない第三者に対するパチンコ営業禁止の仮処分命令が債権侵害を理由に第三者の営業を禁止することは許されないとして取り消された場合において仮処分債権者に過失の推定を覆えすに足りる特段の事情がないとはいえないとされた事例
民法709条,民訴法745条,民訴法756条,民訴法760条
判旨
保全処分が敗訴等で取り消された場合、申請者に過失があったと事実上推定されるが、申請当時の諸般の事情に照らし、申請をしたことに無理からぬものがあるときは、特段の事情として過失の推定が覆る。
問題の所在(論点)
不当な保全処分の申請が不法行為(民法709条)を構成するか、特に、敗訴確定後の申請者の過失の有無をいかに判断すべきか。
規範
仮処分命令が異議手続等で取り消された場合、原則として申請者に過失があったと推定されるが、申請当時の諸般の事情に照らし客観的にみて、当該申請が権利の実現を確保するために無理からぬものと認められるときは、過失の推定を覆すべき特段の事情があるものと解すべきである。
重要事実
上告人A1は、Dとの競業禁止約定を理由に、Dの知人である被上告人名義のパチンコ営業を禁止する仮処分を申請し、認容された。しかし、後に上告人の敗訴が確定し、被上告人から仮処分申請の過失を理由とする不法行為責任を追及された。事案当時、被上告人は営業経験がなく、建物の建築請負や機械注文はDが主導しており、営業管理者もDとされるなど、Dが実質的営業者であり被上告人は名義貸しにすぎないと疑わせる事情が多数存在していた。
あてはめ
被上告人はパチンコ営業の経験がなく、店舗建築や機械注文等の開業準備のほとんどをDに任せていた。また、Dとの紛争時には被上告人が表立った行動に出ず、風俗営業の管理者もDとされていた。これらの客観的事情に基づけば、上告人が「被上告人はDの名義貸し人である」あるいは「Dの義務違反に加担する共同経営者である」と判断して仮処分を申請したことには無理からぬ点がある。原審が重視する調査不足や照会欠如も、当時Dと被上告人の親密な関係からすれば、有効な回答を期待し難いものであったといえる。
結論
上告人がDのほかに被上告人をも相手取って仮処分を申請したことは、権利実現の確保を目的とした無理からぬものとして、過失の推定を覆す特段の事情がある。
実務上の射程
司法試験では、保全処分の不当執行による損害賠償請求において、過失の有無を検討する際の基本的枠組みとして活用する。原則としての過失推定と、それを覆す『特段の事情』のあてはめにおいて、本判例が示した客観的状況(外形的な名義と実態の乖離など)を参考にする。
事件番号: 昭和43(オ)260 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
会社を被申請人とする仮処分命令が、同会社に対しては被保全権利が存在しないとして取り消された場合においても、右会社の取締役が会社の営業と競合する事業を個人として営んでいたため、仮処分申請人が被申請人を右取締役個人とすべきであるにもかかわらず、これを右会社と誤認した等判示の事実関係のもとにおいては、右仮処分命令を取り消す判…